こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ミツコ感覚

otello2011-10-22

ミツコ感覚


ポイント ★★★
監督 山内ケンジ
出演 初音映莉子/石橋けい/古館寛治/三浦俊輔/山本裕子/永井若葉
ナンバー 246
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


夢はあるけれど必死で頑張っているわけではない。明るい未来を描けるほどナイーブでもない。目の前にある暮らしは重苦しく、行き詰まり感あふれる日々はヒロインから笑顔を奪っている。そんなとき突然現れた闖入者は、嘘で塗り固めた図々しさで彼女の人生に土足で踏み込んでくる。その男は、まるで彼女自身が虚構の中で生きているのに気づかないフリをしているのを見抜いているような鋭さで、一枚ずつ心の鎧を剥ぎ本心に迫っていく。ほころび始めた世界、歪んでいく日常、映画は信じたいものしか信じない人々の目に残酷で予想外の現実を突き付けていく。


写真学校に通うミツコは風景撮影中に三浦と名乗る男に声をかけられしつこく付きまとわれる。ところが姉のエミはなぜか“同級生だった”と言う三浦の出まかせを受け入れ、不倫相手の松原ともども家に招き入れる。


ミツコに対する三浦の異常なまでのストーカーぶりは、行動よりもむしろ何を言っても通じない恐ろしさで表現される。そしていつしかミツコは三浦が何気なくかつ計算された間合いで放つ「自分を認めてくれる言葉」に防御を解く。不倫しているエミを不快に思っているが、姉ゆえに突き放せない。他方、元恋人の死すら知らされていない疎外感。ミツコの狭い人間関係の中で、三浦は唯一彼女のことを理解しようとしてくれている存在なのだ。ミツコの緊張が緩んだタイミングで現れる三浦に、嫌悪感を抱きつつも、いっそ彼の言うとおりにしていれば楽になるかもと思い始めるミツコの気持ちが切なくもリアルだ。


◆以下 結末に触れています◆


一方、エミは松原の煮え切らない態度にいらだちを隠せず、何とかセックスだけは続けたい松原にようやく離婚を決意させる。そのあたり、ほかにも女がいそうな松原の腰の引けた言動が狡さや優柔不断さといった感情を浮き彫りにしていて、おかしさの中にも強烈な皮肉が効いている。もはやバランスを失ってしまったミツコとエミの小さな宇宙には三浦姉弟という調整弁が必要。パーティをやらないと言いつつもやってしまう彼女たちの姿が浮かぶラストに、奇妙な安堵感を覚えてしまった。