こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

スマグラー おまえの未来を運べ

otello2011-10-24

スマグラー おまえの未来を運べ

ポイント ★★
監督 石井克人
出演 妻夫木聡/永瀬正敏/松雪泰子/満島ひかり/安藤政信/我修院達也/小日向文世/高嶋政宏/阿部力
ナンバー 252
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


人生とは、本当の自分を隠してなりたい自分になり切ること。やくざ、金貸し、殺し屋、運び屋、裏社会に生きるものは少しでも弱みを見せたら付け込まれてしゃぶりつくされる。だからこそ、恐怖や苦悩など感じない人間であると周囲にアピールし続けなければならない。強がるか寡黙になるか、物語は流されるままに堕ちてき青年が、運命と対峙する覚悟を決める姿を描く。多岐にわたる登場人物を有名俳優が個性豊かに演じているおかげで、複雑な展開は程よく整理されているが、逆にそれぞれのキャラが立ちすぎてまとまりのない印象を受ける。やくざの親分や運び屋のジジイなどもっと控えめにしてもよかったのではないか。


役者志望のフリーター・砧は借金返済のために、運び屋・ジョーの下でやくざ組長の死体処理を手伝う。親分を殺した二人組の殺し屋・背骨と内臓は仲間に裏切られ、ジョーと砧たちは生き残った背骨の搬送を委ねられる。


肉が歪み骨がきしみ血しぶきが飛ぶ。ヌンチャクを振り回して一瞬で数人のやくざを仕留める背骨の動きはスーパースローのシュールな映像で表現される。一方、拷問を得意とするやくざの幹部・河島はじっくりを時間をかけて相手を痛めつけ口を割らせようとする。2人を並列して背骨の洗練と河島の残虐を対比させようとしているが、背骨のヌンチャク技はブルース・リーに遠く及ばず、河島のサディスティックな性癖に至っては不快感だけが強く残った。結果的に、そこからは「血と暴力の美学」は見いだせなかった。


◆以下 結末に触れています◆


背骨を逃がしてしまった砧は、身代りにされて河島のところに送られ壮絶な責め苦を味あわされる。「背骨」という役になり切る過程で砧の役者としての魂が試されていくわけだが、それが彼の生き方を決定づける転機であるのは理解できても、そもそも苦痛への耐性は役者の資質とは関係ないはず。触れると切れるような狂気を孕んだ背骨に扮した安藤政信以外いイマイチ華のない男優たちに比べ、金貸しを演じた松雪泰子や極妻役の満島ひかりといった女優の存在感が作品を引き締めていたのが救いだった。。。