こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ハラがコレなんで

otello2011-11-08

ハラがコレなんで

ポイント ★★
監督 石井裕也
出演 仲里依紗/中村蒼/石橋凌/稲川実代子/斉藤慶子/並樹史朗/竹内都子
ナンバー 266
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


「OK、私が面倒を見る」。出産間近なのに夫も住むところもない、にもかかわらずカネに困っている人には全財産を譲り、客のいない食堂を手伝おうとする。切羽詰まると昼寝をして“風”の流れが変わるのを待つ。決して笑顔を振りまいたりはしないが、異常とも思えるポジティブシンキングは周囲の人々を巻き込んで人と人の絆を取り戻させ、“粋”な生き方とは何かを問いかける。そんな恐ろしくユニークなヒロインを仲里依紗がしかめっ面で熱演。しかし、映画は彼女のキャラクターを生かすには器が小さすぎ、アイデア先行の生ぬるいエピソードに終始する。


シングルマザーになりかけの光子は、所持金も底を尽き臨月のおなかを抱えて少女時代に一時過ごした貧乏長屋に転がり込む。毒舌の一方人情に篤い大家のばあさん・清は寝たきりになっていたが、次郎と陽一の食堂の父子はまだそこで暮らしていた。


プライバシーはまったくないが、住人同士の関係が濃い長屋は一種の理想郷。次郎と陽一は交代で清の介護をしている。人助けこそ究極の“粋”と考える光子も、長屋で産む代わりに清の世話をすると言い出す。さらに食堂に客を呼び、客の悩みを聞いてやる。彼女はまさに掃き溜めのマドンナという設定、ところがどん底にいる人々に希望を与えたり幸せを運んできたりはしない。むしろ思い込みが激しすぎる性格は有難迷惑ですらある。本来、彼女の善意の空転ぶりが面白いはずなのだが、切れ味の悪い映像はユーモアにまで至らず、いつまでたっても笑いが弾けないのには閉口した。


◆以下 結末に触れています◆


そして次郎が好意を寄せる喫茶店のママにまでおせっかいを焼こうとする光子は、自らの陣痛が始まっているのにママの引っ越しを差配して福島まで車を走らせる。もはやこのあたりになると物語は混沌の極み、主な登場人物たちもなぜか同行しているが、ただ賑やかしているだけだ。もっと光子自身の葛藤や苦悩といったものを前面に出し、その中で彼女が成長していく姿が見たかった。。。