こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ハードロマンチッカー

otello2011-11-28

ハードロマンチッカー

ポイント ★★
監督 グ・スーヨン
出演 松田翔太/永山絢斗/芦名星/真木よう子/中村獅童/柄本時生
ナンバー 281
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


相手の顔が腫れあがっても殴り続け、エビのように背中を丸めてのた打ち回っても蹴り続ける。時に鉄パイプや金属バットでぶちのめし、女でも手加減しない。喧嘩の強さがものをいう荒れ果てた町、己の腕力と度胸を頼りに生きる一匹狼。その研ぎ澄まされた目はいつ暴走のスイッチが入るかわからない危険を孕んでいる。映画はそんな主人公の殺伐とした日常に観客を放り込み、まるで異邦人のごとく方向性不明の不安を味わせてくれる。やくざと不良、在日朝鮮人・・・。欲望と犯罪が渦巻くエネルギッシュな世界は暴力描写がリアルなほど現実感が希薄で、夢や目標はもちろんないが苦悩や絶望も一向に見えてこない。


下関のチンピラ・グーは朝高の不良をボコったために朝高グループから追われる羽目になる。その後もトルエン売人などともトラブルを起こして敵を増やしていくが、小倉のヤクザにスカウトされてクラブのマネージャーになる。


グーは在日朝鮮人でありながら朝高には通わず日本人とつるんで朝鮮人たちと距離を置いている。一方で日本人から全幅の信頼を得ているわけではない。カネがすべてのヤクザからはかわいがられるが、地元の不良コミュニティでは中途半端なポジション。ところが、グーは決してアイデンティティに悩んだりせず、ただ自ら火種を撒き、拳をふるい鉄パイプを振り回して立場を悪くしていく。グーを演じる松田翔太の、触れると切れるギラギラした肉体性は危うさと脆さの両刃の剣、狂気が正気とも思える感覚を見事に体現していた。


◆以下 結末に触れています◆


あえて物語性を排除した展開には戸惑うばかりで、エピソードの断片からうかがえる全体像も焦点がブレたままで、結局消化不良感だけが残る。もう少し足元が不安定な若者のヒリヒリする痛みややり場のない怒り・不満といった感情を描きこんで何らかの主張をすべきなのではないか。もしかして、メッセージのなさこそが、人生に希望を見いだせない現代の閉塞感を象徴していたのかもしれないが。。。


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