こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

けいおん!

otello2012-01-04

けいおん!

ポイント ★★★*
監督 山田尚子
出演
ナンバー 1
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

メンバー各々の自己主張が強く、音楽性の違いを激しくぶつけ合う女子高生ヘビメタバンドの熱い青春、と思わせておいて肩透かしを食らわすプロローグが秀逸で、一気に作品世界に引き込まれてしまった。夢を追って突っ走るわけでもなくライバルと競うわけでもない、努力や向上心とはあまり縁のなさそうな女子高生たちのユルくてヌル〜い音楽ごっこはむしろ心地よさすら覚える。男子禁制、仲の良い友達と同じ時間を共有したい、恋の悩みや将来への不安には目を向けず、妬み嫉み怒り悲しみといった負の感情も抱かず、ただ今を楽しむことだけに全エネルギーを注ぎ込む彼女たちは神々しくさえ見える。

卒業を間近に控えた軽音楽部の3年生4人組は唯一の2年生・梓に歌を贈る計画を立てるが、途中から卒業旅行の話にすり替わる。梓も誘われて5人でのロンドン行きが決まり、心配性の梓が仕切る羽目になる。

他人任せの先輩としっかり者の後輩。そこには上下関係などなく、3年生たちは梓に頼り切っている。梓もやりがいを感じ、率先してスケジュールを組んだりしている。初めての海外旅行、はしゃぎまわる3年生たちにいい思い出を作ってもらおうとする梓が健気だ。時々は3年生たちも梓を心配して優しくする。その、何よりも友情を大切にする彼女たちの結束の固さは、競争社会を真っ向から否定し、現状が永遠に続くのを願っているかのよう。手の届く幸せで満足する彼女たちの姿は、明るい未来を思い描けない21世紀という時代の若者のメンタリティを象徴していた。

◆以下 結末に触れています◆

ロンドンではホテルを間違えたり飛び入り演奏したりといろいろ経験するが、だからといって彼女たちが一回り大きく成長して帰ってきたりはせず、卒業式の日も変わらず迎える。梓への歌も完成させ卒業ライブを開くが、ここでもノリのよい音楽で充実した高校生活を送らせてくれた友人や先生に感謝を捧げるのみ。生きていることがハッピー、人生を全肯定するこの映画の姿勢は非常に清々しい印象を残してくれる。

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