こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

運命の子

otello2012-01-05

運命の子 趙氏孤児

ポイント ★★★
監督 チェン・カイコー
出演 グォ・ヨウ/ワン・シュエチー/ファン・ビンビン/チャン・フォンイー/ホワン・シャオミン
ナンバー 308
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

家族を奪われた恨みは決して消えない、復讐を誓った男の深謀遠慮がもたらすかくも愚かな憎悪の連鎖。愛と恩讐、複雑に入り組み歪んだ思いは彼だけでなく周囲の人々をも巻き込んで、秘密と嘘が更なる悲劇を生み出していく。春秋時代の中国、戦乱と和平、謀反と服従、覇権をめぐる陰謀渦まく世の中に生きた男たちの生き様と女たちの死、2000年以上の時を経た古典は壮大なメロドラマとなって現代によみがえる。目的を果たすために費やす長い長い時間をはじめ、あらゆる尺度が日本人の感性とは違いすぎ、中国人が持つ価値観や世界観の大きさと広がりをうかがわせてくれる。

趙の将軍・屠岸賈はクーデターで宰相一族を皆殺しにする。宰相の妻は生まれたばかりの赤ちゃんを医師の程嬰に託し自害するが、屠岸賈が孤児探しを始めたため、程嬰は自分の赤ちゃんと妻を屠岸賈に殺されてしまう。程嬰は代わりに宰相の遺児をわが子として育て、長じた後に仇を討たせる計画を立てる。

勃と名づけられた赤ちゃんを抱えた程嬰は屠岸賈に仕官、成長した勃は屠岸賈を義理の父と慕い、口うるさく束縛する程嬰より親しい関係になる。後半は、2人が信頼と愛情を築きあげる過程を程嬰が横目で見ながら機が熟すのを待つ一方、彼の思惑を知らない屠岸賈と勃の交流が悲しい喜劇となって繰り広げられていく。計算通りにならない人の心を操ろうとして空回りする、その感情の奔流と運命の皮肉はシェークスピア劇を見ている気分になる。

◆以下 結末に触れています◆

屠岸賈は程嬰には妻子の仇。勃にとっても親と一族の仇なのに彼は過去のいきさつを知らない。つまり程嬰は勃に親の仇を取らせようとしてかえって勃に恨まれる羽目になるのだ。また、軍装の勃を見た屠岸賈はいち早く事情を察するが、勃を見捨てることができない。そのあたり、3人の苦悩と怒り、裏切りと呵責、そうした葛藤と疑念が非常にリアルかつ繊細に描写され、結局「人を呪わば穴二つ」の結果になる。宰相の妻が残した言葉通りにしていれば、少なくとも平穏な人生を送れたのはわかっていたはずなのに、いやそもそも計画に無理があるのはわかっていたはずなのに、憎しみを忘れられない人間の哀れな性が圧倒的なスケールで描かれていた。

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