こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

善き人

otello2012-01-07

善き人 GOOD

ポイント ★★★
監督 ヴィセンテ・アモリン
出演 ヴィゴ・モーテンセン/ジェイソン・アイザックス/ジョディ・ウィッテカー/スティーヴン・マッキントッシュ/マーク・ストロング
ナンバー 3
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

ファシズムに違和感を覚えるだけの常識はある、病気の母や家族を思いやる愛情もある、友人を助けようとする良心もある。しかし、体制に反対の声を上げる勇気はない。1930年代のドイツ、世の中がナチス一色に染められていく中で選択を迫られ、“no”と言えなかった男の優柔不断、それは当時のドイツ知識人階級のうち何割かが共有していたはず。物語は、出版した小説が図らずも政策に利用されてしまった学者がズルズルとナチスに取りこまれていく過程を描く。彼自身は1人も殺していないし直接ホロコーストに関わってはいないが、間接的に手を貸す羽目になる。そこで見せる人間の弱さはヒリヒリするほど切実だ。

大学で文学を教えるジョンはナチスによる焚書を苦々しい思いで見つめていたが、“愛するが故の殺人”をテーマにした小説がヒトラーの目にとまり、ナチ入党を熱心に勧められる。ジョンは出世という餌に食いつき、カギ十字のバッチをつける。

ジョンにはモーリスというユダヤ人の親友がいるが、時代が下るにつれ友情が保てなくなっていく。それでもモーリスに国外脱出の手配を頼まれると迷ったあげく実行するが、本音では立場を悪くしかねない行為に手を出したくない。ナチス政権下の一般的なドイツ人は、ついこの間まで友人や隣人として付き合っていたユダヤ人を敵視しなければならない現実に目と耳を塞いだことに、後に重い呵責となって苦しめられる。ジョンはそんな「善良なドイツ人」の象徴だ。

◆以下 結末に触れています◆

やがて戦争がはじまり、将校となったジョンは偶然モーリスの消息を調査する機会を得る。痩せこけて死にかけた囚人と新たに送りこまれてきたユダヤ人たちを強制収容所で目にしたジョンはモーリスの運命を悟る。何もできなかったのではない、しなかったのだ。だが、たったひとりで何ができたのか。ジョンの胸をよぎる後悔と自分に対する慰めと言い訳、ジョンのような善き人ですら、いや善き人だからこそ苦悩は一段と深く険しい。そしてその命題は同時に観客にも鋭く向けられていた。

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