こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ニーチェの馬

otello2012-01-09

ニーチェの馬  A TORINOI LO

ポイント ★★★★
監督 タル・ベーラ
出演 エリカ・ボーク/ヤーノシュ・デルジ
ナンバー 4
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

強風が枯葉と土埃を舞い上げる、地の果てのような孤立した場所から世界の終焉を見つめている父と娘。異変は徐々に、だが確実にやってくる。それでも水汲みや馬の世話といった日々の仕事はこなさねばならず、食事は毎日茹でたジャガイモのみ。もはや運命から逃れられないのはわかっている、だからといって祈祷やお祓いをするわけでもなく、その時が来るのを待っている。鳴り止まぬ風音、絶望をいざなう音楽、それらがモノクロームの映像により濃い影を落とし、この世に最後に残ったであろうふたりの人生を浮き彫りにする。

人里離れた田舎の石造りの家に住む父と娘。馬車を走らせ急いで戻った父は、いつも通り塩をふったジャガイモを口にする。翌日、馬が命令を聞かず父が出かけられず家にいると、訪ねてきた男が神の不在を語る。

追い立てられるように馬を急き立てた父は、町で何を見たのだろう。水を貰いに来た人々はどこへ逃げるのだろう。疫病なのか天変地異なのか、ふたりが住む荒れ地の外で凶事が起きているのは確か。さらに井戸が涸れて引っ越そうとした彼らが、丘を越えてすぐに戻ってくる。脅威は近くまで迫っているのに、彼らには生き残るための知恵も行動力もない。重労働の繰り返しの中で、希望などとは無縁に暮らしてきた彼らにはキリストの教えさえも無力だ。恐ろしく長回しのカットと変化に乏しいシーンの連続は単調で退屈ですらあるが、そこからは「我々はなぜ存在するのか」という壮大な問いが発せられている。

◆以下 結末に触れています◆

水がなくなったあと、ふたりの周りからは音も止み光も消える。そんな状態でもまた一日が始まると食卓にはジャガイモが乗っている。もう茹でるための水も火もなく生のままかじりつくしかない。彼らの周囲は永遠の無のような闇に包まれているのに、食べることはやめようとしない。この救いのない物語の中、その行為だけが人間の思考や理性を超えた生きようとする本能を強烈に主張し、圧倒的なイマジネーションの奔流となって感情を揺さぶるのだ。

↓公式サイト↓