こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

戦火の馬

otello2012-01-17

戦火の馬 War Horse

ポイント ★★★*
監督 スティーヴン・スピルバーグ
出演 ジェレミー・アーヴィン/エミリー・ワトソン/デヴィッド・シューリス/ベネディクト・カンバーバッチ
ナンバー 11
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

愛された思い出を支えに過酷な環境に耐え抜く壮麗な馬。平時には使役され、戦場では重労働に傷つき動けなくなるまで酷使される。飼い主に忠実であろうとすればするほどその運命は翻弄され、更なる悲劇が待ち受ける。馬たちを苦痛に追いやるのはいつも人間、それでも人間が希望を持ち続ける限り馬もまた生きようとする本能に従う。第一次世界大戦をはさんだ時代の欧州、映画は一頭の軍用馬の目を通して、人間のエゴと良心、さらに戦争の真実を描く。英国の田園風景の中で跳ね回る精悍なサラブレッド母子の映像はそれだけでアートの香りが漂い、命の美しさを高らかに礼賛する。

英国農村部で生まれた額にダイヤの印のある子馬は小作農家の少年・アルバートが調教係となり、ジョーイと名付けられる。アルバートとジョーイは固い絆で結ばれるが、対独戦が開戦、父はジョーイを軍に売ってしまう。ジョーイは訓練施設で黒馬・トップソーンと出会う。

その後、騎馬として渡仏、前線に出たジョーイはトップソーンとともに独軍に捕らわれたり、フランス娘にかわいがられたりする。馬も仲間を思うのか、同じ軍用馬として銃弾の下を潜り抜けたジョーイは、トップソーンに荷引き用馬具のはめ方を教えたり、負傷した彼の代わりに大砲を引こうとする。確かに言葉は話せない、それでも仕種やボディタッチ、鼻息などで相手に気持ちを伝える姿は、馬にも怒りや恐怖、喜びや悲しみの感情と記憶があり、自由を求める魂は人間と変わりないことを物語る。

◆以下 結末に触れています◆

独軍から離脱するも中立地帯で有刺鉄線に絡まったジョーイを英独双方の兵士が協力して救出するが、そこで、凄惨な殺し合いをする敵同士でも、本当は善良な人間に違いなく、友情を芽生えさせる。ジョーイの気高さは人の心を打ち、忘れていた思いを兵士たちによみがえらせるのだ。そして、鉄錆色の夕空を背景にした人馬一体のシルエットは、圧倒的な抒情性でこの壮大な叙事詩の余韻を楽しませてくれた。

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