こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

劇場版テンペスト3D

otello2012-01-27

劇場版テンペスト3D

オススメ度 ★★*
監督 吉村芳之
出演 仲間由紀恵/谷原章介/塚本高史/高岡早紀/GACKT/奥田瑛二/高橋和也
ナンバー 307
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

天を覆う黒雲を背に巨大な竜が咆哮を上げながら舞う。それは運命という過酷な渦に自ら身を投じたヒロインの内なる叫び。世のため国のために苦難の道を選んだ女の情念なのだ。映画は、19世紀中盤、琉球の名家に生まれた娘が明晰な頭脳と知識への欲求を満たすために女を捨てる決意をし、宮廷に上がってからは清と薩摩、さらには米国を向こうに回してタフな外交交渉を一手に引き受ける姿を描く。澄み切った海、抜けるような青空、豊かな自然に恵まれてはいても、そこで繰り広げられる人間の営みは欲望に満ちている。しかし、諍いの炎を武力ではなくあくまで智略で解決しようとする彼女の姿勢は、まさしく平和的外交の象徴だ。

大嵐の夜に生を受け、幼いころから学問に秀でた真鶴は、官僚を目指すため宦官・寧温と偽って登用試験に臨む。その答案が原因で父は斬首されるが、王の目にとまり宮廷に上がることを許される。だが、宮廷では王の姉・聞得大君が権勢をふるっていた。

寧温は後宮に出入りするが、早速聞得大君に正体を見抜かれ弱みを握られる。また、清の宦官・徐からも屈辱を受けたり、旧王朝の血を引く逆臣と誹謗されたり、宮廷内のパワーバランスに馴染めずなかなか本来の実力を発揮できない。その都度思いを寄せる薩摩藩士・浅倉や同僚の朝薫などに救われるが、ついには島流しになってしまう。そのあたりの展開はTVドラマのダイジェスト版を見ていうようで、エピソードの因果関係が分かりづらいのが難点。ドラマのファンならもっと楽しめたに違いない。

◆以下 結末に触れています◆

やがて米国のペリーが黒船に乗って琉球にやってくる。なんら有効な手立てのない官僚たちを尻目に、島流しになっていたはずの寧温が突然女性の衣装を纏って宮廷に復活、全権特使としてペリーを退ける。その後は、王の側室・真鶴として寵愛を受ける一方、寧温としての仕事もそつなくこなすなど、見事な処世術を身につけている。唯一、“王に身は捧げても心は浅倉のもの”と言い放つシーンに、自分の気持ちを押し殺して生きてきた「女の哀しみ」が凝縮されていた。

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