こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

少年と自転車

otello2012-01-30

少年と自転車 LE GAMIN AU VELO

オススメ度 ★★★*
監督 ジャン=ピエール・ダルデンヌ/リュック・ダルデンヌ
出演 セシル・ドゥ・フランス/トマス・ドレ/ジェレミー・レニエ/オリヴィエ・グルメ
ナンバー 20
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

「お父さんは絶対に僕を見捨てない」。そう信じる少年は父の姿を求めて町を彷徨する、父に買ってもらった自転車にまたがって。ところが、期待は打ち砕かれ彼は途方に暮れてしまう。それでもかっては父に愛された、少年は自転車を証拠として大切にし、思い出だけは壊れないようにしている。映画は、育児放棄された少年が他人を信用する気持ちを失い心を閉ざしていく過程を丁寧に拾い、ハンディカメラによる長まわしのショットが登場人物の感情の動きを克明にとらえて人間の脳裏に浮かぶさまざまな思いを再現する。胸の内を言葉で表現できない少年が夜の町でひたすらペダルをこぐシーンが目にしみる。

児童施設に入れられたシリルは学校を抜け出して父が住んでいたアパート訪ねるが、誰も連絡先を知らない。偶然知り合った美容師のサマンサがシリルの自転車を買い戻したことから、シリルはサマンサに週末里親になってくれと頼み、父探しを続ける。

やっと見つけ出した父に追い返されるシリルは、自分がなぜ拒絶されるかわからず思わず顔をかきむしる。状況が理解できず、苛立ちをコントロールできないシリル。もはや大人は頼れないと悟り、次第に“密売人”と呼ばれる年上の少年に接近する。愛されずに生きていく難しさ、そしてそれを知られないように強がろうとする、そんなシリルの複雑にねじ曲がった怒りと哀しみを、抑制の中でリアルよみがえらせるアルデンヌ兄弟の演出はこの作品でも健在、その映像は胸に爪を立てられるような痛みを伴う。

◆以下 結末に触れています◆

“密売人”に唆され強盗するシリルだが、あっさりと切り捨てられると奪ったカネを父に渡そうとする。この期に及んでも、カネがあれば父が受け入れてくれると思ったのだろう、幼くも短絡的な父への思いがさらに切なさに追い打ちをかける。結局、シリルはサマンサによって救済される、普の映画ならばシリルに自転車を捨てさせて父との決別の象徴とするが、シリルは最後まで自転車を乗り続ける。子供の心は傷つきやすい、だが回復するのも大人より数倍速いと思わせることで、シリルの未来に一条の希望が見えてくるのだ。

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