こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ポエトリー アグネスの詩

otello2012-02-15

ポエトリー アグネスの詩

オススメ度 ★★*
監督 イ・チャンドン
出演 ユン・ジョンヒ/イ・デヴィッド/キム・ヒラ/アン・ネサン/パク・ミョンシン
ナンバー 36
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

リンゴの持つ生命力、花の色彩や香り、鳥のさえずり…。老婆は身の周りの世界を観察してその美しさを言葉で表現しようとする。しかし、いくら目を凝らし耳をすましメモを取っても感情には訴えてこない。一方で現実に起こる出来事は嘘や欲望や秘密や不正といった欺瞞に満ちている。ならばいっそ全部忘れた方が幸せはないか。映画は認知症を発症したヒロインが人生の真実を探し求める過程で、この世で最も大切なものは何かに気づく姿を描く。冗漫とも思える映像の羅列は彼女が感じる時間の流れなのか、テンポの遅さにはかなりの忍耐を要する。

孫と2人で暮らすミジャはアルツハイマーの初期症状と診断されつつも、詩作教室に通い始める。ある日、孫の同級生・ヒジンが自殺、孫たちがヒジンに性的暴行を加えていた事実が明らかになる。

自殺の原因を知った加害者側の親たちや学校側は“生徒の将来のため”と言い訳し男子生徒たちの関わりを隠ぺいしようとする。そんな彼らをミジャは許せない、何にもまして反省をまったく見せない孫にいら立っている。同時に、介護している老人の性欲を目の当たりにし、きれい事だけに目を向けては生きていけないことも学んでいく。本来なら酸いも甘いも知る年齢だが、認知症によって心を浄化され、青臭い正義感や純真さを取り戻したミジャが、いつしか可憐な少女のように見えてくる。

◆以下 結末に触れています◆

やがて、ミジャはヒジンの足跡を追って彼女の心情に迫ろうとする。15歳で死を選んだ少女はどんな気持だったのか。叶わなかった夢、伝えられなかった思い、果たせなかった約束、届かなかった希望…。孫たちが奪ってしまったヒジンの未来を詩に詠み、ミジャは彼女に同化しようとする。そこにはまぎれもない「生きる」という瑞々しくも輝かしい瞬間が満ちているのだ。単調で退屈に思えたえ緩慢なエピソードの数々は、すべてこのラストシーンに収斂され、命の賛歌として見事に昇華されていた。

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