こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

珈琲とエンピツ

otello2012-02-21

珈琲とエンピツ

オススメ度 ★★*
監督 今村彩子
出演
ナンバー 24
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

どんな時も笑顔を絶やさず人に話しかけ、店を訪れる客にはコーヒーをふるまって紙と鉛筆で言葉を交わす。かつてサーファーを目指し、中年になってからサーフショップを開く夢を叶えた男は、あくまで人生に前向きだ。幾多の挫折もあったに違いない、偏見や先入観に行く手をさえぎられる経験もしているはず。だが、彼はつらい記憶になどなかったかのように場を盛り上げそこにいる人々を明るくする。映画は、生まれつき聴覚障害を持つ主人公が普通に働き、普通に趣味に興じ、普通に家庭生活を営む姿を追う。

ろう者(聴覚障害者)の映像作家・今村は日常のなかで聴者(聴覚正常者)との壁を感じ、怒りと虚無感を覚えていたが、ある日静岡県のサーフショップ経営者・太田と出会う。太田もろう者だが、彼のおおらかな性格は、友人・知人の輪を聴者・ろう者を問わず広げていた。

今村は自身にない太田の人間的な魅力に惹かれ、彼のドキュメンタリーを撮り始める。多くのろう者同様、手話が「通じない他人とのコミュニケーションに苦労し、うんざりし、やがて自分を理解してもらうのをあきらめかけていた今村にとって、太田の存在は異質に映ったのだろう。身振り手振りでなんとか考えを表現しようとする太田を見ていると、「思いを伝えること」を恥ずかしがったり面倒くさがっていてはいつまでたっても相互理解は生まれないのがよくわかる。

◆以下 結末に触れています◆

ただ、太田の生き様、そして太田を通じてなされる今村の主張は、聴者から見るとやはり「ハンディキャップを乗り越えて頑張っている人」という通常の印象が強い。しかし、もともと音の概念を知らずに暮らしている彼らにとって、“聞こえない”のはごく当たり前の状態、それを障害と思うのは健常者の思い上がりでしかないことをこの作品は教えてくれる。ひとつ気になったのは、太田は両親ともろう者でさらに妻も息子もろう者。聴覚障害は遺伝的な問題から発生するものなのか?

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