こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

顔のないスパイ

otello2012-02-27

顔のないスパイ THE DOUBLE

ポイント ★★*
監督 マイケル・ブラント
出演 リチャード・ギア/トファー・グレイス/マーティン・シーン/オデット・ユーストマン
ナンバー 48
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

本人は引退したつもりでも過去は亡霊となっていつまでも付きまとう。一度手を血に染めた者は死ぬまでその呪縛から逃れられず、ひとりで決着をつけなければならない。物語は、冷戦時代に活躍した伝説の殺し屋の復活が静かに余生を送っていた男を再び前線に駆り立てる過程で、ロシアの情報局がいかに米国当局に深く浸透しているかを描く。誰もが裏の顔を持ち、誰かが誰かをだましている。他人を信用できず、本当の自分を捨てなければ生き残れないスパイの宿命が哀しい。

ロシアと関係が深い議員が暗殺され、手口から20年前に姿を消した旧ソ連の暗殺者・カシウスの仕業と断定される。事件を担当するFBI捜査官・ギアリーはかつてカシウスの組織を壊滅に追い込んだ元CIAエージェント・ポールに協力を要請するが、ポールは「カシウスは死んだ」と断言する。

早々とポールがカシウスであるとネタバレしてしまうが、ギアリーは知らない。同じころ、ロシア人工作員・ポズロスキーが米国に密入国した情報を得たポールとギアリーは、カシウスの手掛かりになるとポズロスキーを探す。このあたりから映画への興味は、「いつギアリーがポールの真実にたどりつくか」と「なぜポールはポズロスキーを執拗に追うか」に移る。山積みの資料を分析し写真を一枚ずつ精査していく、派手なアクションよりも、そんな地道な作業こそ捜査の基本であることをギアリーは身を以て証明していく。

◆以下 結末に触れています◆

ポールはギアリーに手を引けと警告する。それは正体がばれるのを恐れるより、ポールもまたギアリーの正体に気づき、この若者に妻子を失うという永遠に癒えない傷を負わせたくなかったからだろう。同じ轍を踏ませたくない、二重スパイの先輩からの忠告なのだ。ただ、早めに素性を明かしたのならば、次第に芽生えていく友情と抹殺指令との板挟みに苦悩するなど、お互いに殺人マシーンではなく人間的な感情を持つがゆえの葛藤を描きこめば共感できたはずだ。

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