こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

テイク・シェルター

otello2012-03-01

テイク・シェルター TAKE SHELTER

オススメ度 ★★*
監督 ジェフ・ニコルズ
出演 マイケル・シャノン/ジェシカ・チャステイン/シェー・ウィガム/ケイティ・ミクソン/キャシー・ベイカー
ナンバー 50
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

地平線に湧きたつ鉛色の雲、突然降り出す黄色い雨、統制を欠いた黒い鳥の群れ。夜ごとうなされる悪夢と大量の寝汗、昼間は幻覚ばかり見る。世界が歪んでいるのか自我が壊れていくのか、主人公は異変が起きつつある日常から家族を守ろうとする。映画は遺伝性の精神疾患が発症しつつある男が、意識の内側と外側の区別が次第に困難になっていく過程を描く。彼の視点=主観と第三者の視点=客観がランダムに入り混じり、彼を取り巻く状況が着々と悪化し本人も気づいているのにどうすることもできない悪循環を再現する。

美しい妻と聴覚障害の娘を持つカーティスは、天候の異常を気にするが誰にも相手にされない。やがて大嵐がやってくる予感に駆られ、庭に穴を掘りシェルターを作り始める。一方で心の病気を自覚しカウンセリングを受けるが、一向に気分はすぐれない。

妻に文句を言われても、職場の同僚や兄に忠告されても、シェルター作りをやめないカーティス。彼自身も己の変調は分かっていて治療を受けるが妄想からは逃れられない。根本的な解決策が見つからないままシェルターは完成するが、会社の備品を無断使用し妻には黙ってローンを組むなど、周囲の人々の信頼は完全に失ってしまう。このあたり、カメラは真綿で首を絞めるような緩慢なテンポで彼の行動を追うが、その苛立たしいほどの展開の遅さは“こんなはずではないのにどんどん深みにはまっていく”カーティスの感情と見事にシンクロする。決して気持ちのよいものではなかったが。

◆以下 結末に触れています◆

結局、カーティスの予言通り町は大嵐に呑み込まれるが、彼と妻子はシェルターのおかげで無事やり過ごす。なのにシェルターの外に出て荒れ果てた自宅周辺を見つめるカーティスは、自分たちは助かったにも関わらず浮かない顔。それは嵐こそが、我が身に確実に起こる統合失調症という母親と同じ運命の象徴だから。バカンス先で、沖合でうなりを上げる2本の竜巻が、彼の不幸な未来を暗示していた。

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