こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

孤島の王

otello2012-03-10

孤島の王 KONGEN AV BASTOY

オススメ度 ★★★*
監督 マリウス・ホルスト
出演 ステラン・スカルスガルド/クリストッフェル・ヨーネル/ベンヤミン・ヘールスター/トロン・ニルセン/モーテン・ローブスター
ナンバー 57
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

銛を3本も撃たれたのに丸一日逃げようともがき続けた鯨。それはどんな逆境においても折れない主人公の不屈の魂を象徴する一方、不運な未来を予感させる。冬は氷雪に閉ざされ他の季節は室内でも息が白いくらい過酷な環境に放り込まれた彼は、それでも自由への渇望を抑えきれない。1915年ノルウェー、映画は少年向け矯正施設を舞台に、再教育の名のもとに繰り広げられる非人間的な現実を暴きだす。残飯ばかりの食事、無意味な重労働、陰湿な寮長…。厳罰に脅えあきらめの中で過ごしてきた少年たちの、自分の足で立ち上がろうとする姿が胸を打つ。

北の果ての絶海に浮かぶ孤島の少年院に、新たに収容された少年はC19と名付けられる。彼は早速脱走計画を練り、作業中にくすねたのこぎりの刃で海岸の小屋をこじ開け、ボートを盗んで逃亡する。しかし、すぐに捕まって送還されてくる。

入所早々、裸にされて受刑少年たちの前を歩かされ、人格を否定され、命令の順守だけを求められるC19。服従と規律、反抗的な態度を崩さないC19は度々懲罰を受けるが、やがて面従腹背を覚えていく。その過程で孤立していたC19も夢を語ることで他の受刑少年たちと心を通わせ、他人と力を合わせる大切さを学んでいく。ある意味、寮長という“共通の敵”の存在で少年たちはまとまり、仲間を思いやる気持ちを育んでいる。仮に、もっとリベラルな雰囲気ならばかえって入所者同士の派閥争いやいじめなどが頻発していたはず。寮長に憎まれ役を押し付けたこの施設の院長は、意外にやり手だったのかもしれない。

◆以下 結末に触れています◆

だが、性的虐待で一度クビになった寮長の帰還に、優等生のC1ですら出所をフイにしてまで怒りを爆発させてしまう。そして彼の行為は少年たちのくすぶっていた不満に火をつける。大人を相手に戦っても勝ち目がないのは分かっているが、愛のない不誠実な厳格さには耐えられない。そんな少年たちの感情がリアルで切なく、死人のように生きるよりも精いっぱい生きて死ぬ道を選ぶC19の行動が涙を誘う。

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