こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

種まく旅人〜みのりの茶〜

otello2012-03-20

種まく旅人〜みのりの茶〜

ポイント ★★*
監督 塩屋俊
出演 陣内孝則/田中麗奈/吉沢悠/柄本明/永島敏行/石丸謙二郎/寺泉憲/中村ゆり/林美智子
ナンバー 66
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

一日の作業を終え家路につくのだろう、沈みゆく夕日をシルエットに稜線を歩く男のシルエット、そこには太陽の恵みを受けながら大地とともに暮らす農民の充実した人生の喜びが凝縮されていた。昼間は農水省の高級官僚、朝晩は正体不明のアドバイザーとして農家を視察・助言して回る主人公を陣内孝則がソツなく演じ分け、農業の理想を追い求める。映画は茶畑を舞台に、利潤追求型の大規模農法と手間はかかるが人の思いがこもった有機栽培のはざまに立つ農村の現実を描く。そして自然の力を信じるという夢だけでは破たんする、でも農薬に手を出したくない、そんな収穫の最前線で奮闘する人々を活写する。

アパレル会社をリストラされたみのりは大分で製茶農園を営む祖父を尋ね、茶づくりに精通した金ちゃんと出会う。その後、祖父の入院で茶畑を手伝う羽目になったみのりのもとを金ちゃんは度々訪れ、まったく経験のない彼女を指導していく。

本当は現場に出て土をいじり作物の出来を見守るのが大好きなのに、役所の勤めもこなさないといけない金ちゃんこと金次郎。知識は実践してこそ生きてくることを身をもって証明する。雑草の生え具合で茶が何を求めているかをみのりに説く場面は、製茶の素人、つまりほとんどの観客にあらゆる植物には役割があると教えてくれる。彼が二つの顔を使い分ける姿が生き生きしていて、ある種コミカルにリアリティを消しているところが心地よい。

◆以下 結末に触れています◆

一方のみのりは茶畑経営の覚悟に乏しく金ちゃんに頼りっぱなし。全然日焼けしないし肥料や汗にもまみれないしデザイナーへの未練も断ち切れない。農業とはもっと泥臭く、従事者はつば広帽子と野良着で働いていると考えるのは都市生活者の思い込みで、もしかして今の農村では若い女性はおしゃれを楽しみつつ畑仕事に精を出しているのかもしれないが。このあたりを“きれいごと”で済まさず、もう一歩みのりの中の葛藤に突っ込んでほしかった。

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