こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ぼくたちのムッシュ・ラザール

otello2012-03-22

ぼくたちのムッシュ・ラザール MONSIEUR LAZHAR

ポイント ★★★
監督 フィリップ・ファラルドー
出演 モハメッド・フェラッグ/ソフィー・ネリッセ/エミリアン・エロン/ダニエル・プルール/ブリジット・プパール/ルイ・シャンパーニュ
ナンバー 67
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

天井からぶら下がった若い女教師の死体。目にした児童は癒しがたい傷を負う。でも、だれにも打ち明けられない、そのうち大人たちも事件がなかったかのように振る舞う。そんな小学校に現れた異文化の教師、物語は彼と子供たちを通じて、死と真摯に向き合う姿勢を問うていく。自然死や事故死とは違う、他人の悪意に命を奪われた者がどんな思いを残して息絶えたか、それを突き詰めるのが死者への悼みなのだ。カナダのフランス語圏住民の所得水準は高く教育熱心、だからこそ余計に波風を立てまいとする大人たちの姿がリアルだ。

教室で首を吊った先生の代わりにやってきたラザール先生は、アルジェリア出身で教え方も授業内容も時代遅れだが、児童一人一人に対する姿勢が徐々に理解されていく。ある日、問題児のシモンが死んだ先生の写真を持っていたことから、ラザールは自殺の背景を知ろうとする。

体罰どころか児童へのあらゆる身体的接触が禁じられている教師、教え方を批判する父兄、事なかれ主義の校長。そういった環境の中、ラザールは教育に高邁な理想を抱いているわけではないが、故国で教師をしていた亡妻の遺志を継ごうとしているかのごとく、子供たちに難しい課題を与え礼儀を教えていく。カメラはあくまで傍観者の立場でラザールと子供たちを見つめていくが、ラザールの抱える事情と女教師自殺の原因が明らかになるにつれ、映画は息が詰まりそうになるほどの緊迫感を帯びてくる。

◆以下 結末に触れています◆

シモンはどしうして嘘をついたのか、ラザールはなぜ詐称したのか。ラザールは悲しい過去を隠している、シモンは自分が女教師を追い詰めたと思っている。2人とも心の奥深くに封印した真実が重荷となって、いつまでたっても腹の底から笑えなくなっている。散文的な映像の中、人間の微妙で複雑な感情が繊細に再現され、ただ“生きる”ことですら世界には困難が満ちていると考えさせられる作品だった。

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