こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

こわれゆく女

otello2012-04-14

こわれゆく女 A WOMAN UNDER THE INFLUENCE

オススメ度 ★★*
監督 ジョン・カサベテス
出演 ジーナ・ローランズ/ピーター・フォーク/マシュー・カッセル/マシュー・ラボート/クリスティナ・グリザンディ
ナンバー 89
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

ただ、夫とふたりきりの夜を楽しみたい。その願いが破れたとき、女の心は歪み始め、ほどなく修正できなくなってしまう。常軌を逸した言動の末にまるで悪魔に憑依されたかのような狂気を目に湛えていくのだ。映画は夫に約束を反故にされた妻が、怒りを鎮め孤独を癒す一夜の火遊びがきっかけとなり、徐々にしかし確実に精神が破綻していく様子をカメラに収めていく。必死で正気を保とうとするが興奮のあまり抑制が効かなくなる、そんな彼女の内面をジーナ・ローランズが迫真の演技で表現するシーンは背筋が凍るほどリアル。思わず夫の心情に共感してしまう。

夫婦水入らずで過ごす予定だったニックとメイベルだが、急な仕事でニックは帰宅できなくなる。メイベルはひとり夜の街に繰り出し、バーで見つけた男を夫婦の寝室に連れ込む。

元々繊細なメイベルは、ニックのドタキャンと自身の浮気、さらに翌朝ニックが大勢の部下を自宅に連れてきたことから平静を失ってしまう。物語は、彼女と彼女の周囲で起きる出来事を淡々と描写していくが、メイベルの行動が奇妙になるにつれ、日常の中の異常というポイントがクローズアップされていく。特にストーリーもなく、ひたすらメイベルを客観視する映像は、人間ひとりが壊れていく過程で本人と家族が味わう恐怖が浮き彫りにされていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

その後、治療を終えたメイベルが家に帰ってくるが、彼女の病気の原因がニックにもあるのが明らかになっていく。家族・友人思いだが、好意はいつも空回りして有難迷惑なのに自分の価値観を他人に押し付ける。彼の抑圧で再びメイベルに変化が訪れるが、ニックは己の過ちに気付かない。無神経な父親と神経質な母親、幼い子供たちはメイベルの味方になって体を張ってニックから彼女を守ろうとする。ニックとメイベル、もはやどちらが理性的なのかわからない。それでもふたりになるとメイベルに笑顔が戻る。やはり彼らは愛し合っている、メイベルはニックとふたりきりになりたかっただけなのだ。ふたりの間に横たわる男女の情の不可解さに、しばし口が塞がらなかった。。。

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