こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

SR3 サイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者

otello2012-04-18

SR3 サイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者

オススメ度 ★★★
監督 入江悠
出演 奥野瑛太/駒木根隆介/水澤紳吾/斉藤めぐみ/北村昭博/永澤俊矢/ガンビーノ小林/美保純
ナンバー 94
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

大志を抱いて東京を目指したのに、ステージに立つどころかパシリの日々を送りながらヘラヘラと屈辱に耐える場面に、若者のみじめさがにじみ出る。“こんなはずじゃない”といった思いを呑み込んでなんとか希望をつなごうとするが、待ち受けるのは厳しい現実。物語はそんな主人公が田舎町で再起を図ろうとする過程を描く。チンピラに甘んじているが魂の炎は燃え尽きていない。やがて巡ってきたチャンス、「オレ、また音楽やっていいのかな」とつぶやく彼に、運命は過酷な試練を与えていく。ドツボから這い上がろうと必死でもがき、さらに深みにはまっていく男の青春と暴走、行き場を失った彼の怒りがリアルで切ない。

見習いラッパーのマイティは先輩を殴って逃亡、栃木の胡散臭い工場で働いている。そこで音楽イベントの企画が持ち上がり、マイティの心に再び火がつく。そのオーディションにはかつてのメンバー、イックとトムが参加していた。

だがマイティにあてがわれたのは金集めの仕事。思うようにチケットがさばけず追い詰められ、憧れのステージが目の前にあるのに距離がますます広がっていく。一方でイックとトムは新しいメンバーを得て目標に一歩近づく。焦燥ばかりが募るマイティ、緊張に足が震えるイックとトム。もはや逃げ場がなくなったマイティの絶望と、尖がった歌詞とは裏腹に同席したグループと意気投合するイックたちの高揚感が対照的で、別れた仲間がお互いの存在を知らずにステージという終着点に向かって収斂していく構成はスリリングかつエキサイティングだ。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

夢は叶えるものではなく、破れるもの。精いっぱい頑張っているのに、報われるのはごく少数。映画は時代の閉塞感を見事にとらえ、しょぼい人生から抜け出そうとしても結局スタートラインにも立たせてもらえない若者たちの社会に対する憤怒が、暴力と激情が充満するエネルギッシュな映像に昇華されている。それでも負けを認めない、泣きたいけど泣けないマイティたちの姿が、わずかな救いとなって作品を輝かせていた。

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