こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ヴィダル・サスーン

otello2012-04-26

ヴィダル・サスーン VIDAL SASSOON: THE MOVIE

オススメ度 ★★*
監督 クレイグ・ティパー
出演 ヴィダル・サスーン/マリー・クワント/グレイス・コディントン
ナンバー 93
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

撮影時81歳になっているのに背筋はピンと伸び、体に余計な贅肉はなく、足取りも確か。白髪に黒ぶちメガネ、ジャケットにマフラーという出で立ちは、勝ち続けてきた人生を送った者のみが有する気品と余裕を湛えている。半世紀前、旧態依然とした髪型に斬新なスタイルを持ちこみ女性を解放した主人公の半生はたゆまぬ創意工夫の連続、加えてアイデアを実現させるためには他人の倍働く体力もいると説く。成功は才能や運ではない、膨大な時間に及ぶ努力と試行錯誤、継続する精神力が必要であると映画は教えてくれる。

1928年、ロンドンの貧しい家庭に生まれ孤児院で育ったヴィダル・サスーンは、14歳で美容師を志す。大戦後、イスラエル独立運動に参加するが、帰国して再びハサミを握り鋭角的カットが人気を博していく。

もちろんまだヴィダルは存命中('12年5月9日死去)で、ヴィダルについて語る人々も関係者なので聞こえてくるのは称賛の声ばかり。それでもヴィダルの実績を客観的に証明するアーカイブ映像を挿入し、彼らの肉声が大げさではないことがうかがわせる。そしてヴィダルをビートルズモハメド・アリアインシュタインといった歴史上の人物と同列に並べるが、美容の世界を根底から変え女性のライフスタイルに革命をもたらした功績を鑑みるに、それは決して誇張ではないと思わせる。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

その後、ヘアケア用品を売り出して大ヒットさせたり米国のトーク番組の司会を任されたりと、もはや彼の活躍はヘアデザイナーの範疇を越えてマルチな器用さ発揮するに至る。さらに60代になって再婚、ハリケーン被害を受けたニューオーリンズ救済のボランティアまでこなすなど、精力は衰えない。ipod同様、まずデザインありきの発想で築き上げた巨大帝国と彼の生涯を振り返ると、まだまだ不況にあえぐ日本でもビジネスチャンスはあるのではと考えさせられる作品だった。

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