こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

トガニ 幼き瞳の告発

otello2012-04-27

トガニ 幼き瞳の告発

オススメ度 ★★★★
監督 ファン・ドンヒョク
出演 コン・ユ/チョン・ユミ
ナンバー 100
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

容赦ない体罰と夜の悲鳴、傷だらけの顔と閉ざされた心。霧深い街の学校にやってきた新任教師は、校舎や教室に漂うただならぬ雰囲気に不安を募らせていく。悪意が充満し公然の秘密が潜んでいる。生徒も先生も守衛も寮監も気づいているのに口をつぐんでいる。そんな、校長の支配のもとで行われているこの学校の暗部を新任教師が暴いていくが、一方で新任教師にとって告発は失職を意味する。良心に従うべきか家族の生活を守るべきか迷う主人公の背中を、被害少年・少女の決意が後押しをするが、正義を選択する過程で苦悩する姿は人間の弱さを隠しきれない。

聴覚障害児学校の美術教師として赴任したイノは、寮監に暴行されている女生徒・ヨンドゥを保護し、人権センターのユジンに連絡をする。入院したヨンドゥは他にもミンスとユリが学園内で性的虐待の犠牲になっているとユジンに訴える。

イノとユジンはTV局にヨンドゥたちをインタビューさせ、校長と行政室長、パク先生が逮捕される。裁判になり、次々と校長たちの悪行が明らかにされていく。映画は生徒たちの証言を映像化し、彼らを欲望のはけ口にする大人たちの本性に迫る。耳が聞こえず言葉もしゃべれない生徒たちの劣等感や諦観は健常者には計り知れないが、それに付け込む校長たちの卑劣さを糾弾してくれる大人もいると知って彼らが勇気を得ていく場面が、陰々滅滅とした物語にわずかな希望を与えている。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

しかし地元の名士でもある校長は、支援者・有力弁護士さらに検事まで味方につけ、徐々に外堀を埋めていく。やがて司法は公正なはずというイノたちの思い込みは打ち砕かれ、権力の前に為すすべもない。裁判所の前で抗議の座り込みを行う聴覚障害者の傍らで、イノは裁判に関わったすべての聴覚障害者の思いを受け止め、放水の中でミンスの名を叫び続ける。そこには達成感も高揚感もない。だが、リアルな敗北感・無力感を示すことで、映画は途方もないやるせなさを描いて見せるのだ。

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