こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ル・アーヴルの靴みがき

otello2012-05-08

ル・アーヴルの靴みがき LE HAVRE

オススメ度 ★★*
監督 アキ・カウリスマキ
出演 アンドレ・ウィルム/カティ・オウティネン/ジャン=ピエール・ダルッサン/ブロンダン・ミゲル/エリナ・サロ
ナンバー 113
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

おそらく挫折や失敗、絶望や孤独といった経験を何度も重ねてきたのだろう、主人公は多少では驚かず怒らず悲しんだり喜んだりもしない。仕事が終わって愛する妻から小遣いをもらい、バーで一杯ひっかけるのが唯一の楽しみの男だ。物語は、そんな彼が不法入国者を匿ううちに奇跡を呼び起こす過程を描く。彼が守ろうとしたのは生い先短い自分の身ではなく、無限の可能性を秘めた少年の未来だ。そぎ落とされた表現と独特の発色をする映像、そして人生の機微に満ちたセリフの数々。弱者に向けられるカウリスマキ監督の視線はこの作品でも抱擁するような温かさに溢れている。

ル・アーブル駅前で靴磨きをするマルセルは、逃亡中のアフリカ人・イドリッサを見つけ、水と食料・少しのカネを与える。その後、家までカネを返しに来たイドリッサを、マルセルは目的地のロンドンまで行かせてやろうと決意、さまざまな援助を与えていく。

外からカギがかけられたコンテナに閉じ込められていた密航者たちは、警察の摘発におとなしく従うが、イドリッサだけは見知らぬ土地で自力で運命を切り開こうとする。厚意は甘受しても施しは辞拒したイドリッサはきちんとした教育を受けていたはず、マルセルはイドリッサを救うことに自らの希望を見出していくのだ。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

ただ、抑制された登場人物の感情は哀しみや切なさを象徴するときには非常に有効だが、当局の追跡をかわしつつ密航者を国外に逃がすという、小市民的な人間にとっては大冒険とも思えるアクティブでスリリングな展開にはマッチしていない。また、貧乏だが妻や友人ら人間関係には恵まれているマルセルの設定は、どうしてもイドリッサに対して“上から目線”気味になる。北欧からフランスに舞台を移し、深刻な移民問題にメスを入れる映画作家としてのチャレンジは否定しないが、社会の下層で懸命に生きる人々の悲哀にスポットを当てきたカウリスマキ映画の魅力は少し色あせている。

↓公式サイト↓