こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ポテチ

otello2012-05-14

ポテチ

オススメ度 ★★★
監督 中村義洋
出演 濱田岳/木村文乃/大森南朋/石田えり
ナンバー 118
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

世界は見えないところで繋がっていて、運命は皮肉な結末を用意している。人間はそれを受け入れるほかない。間違ったスタート、自分はいったい何者なのか、主人公はわずかに残された希望を他人に託す。映画は、何気ない日常風景の中のひずみに存在している非日常といった原作の持つ雰囲気を見事に映像化し、優しさと愛に満ちた残酷な物語に昇華している。その意外な展開はメタファーと寓意に富み、人はどこかで誰かに見守られているという温かさにあふれている。

今村と若葉はプロ野球選手・尾崎の部屋に空き巣に入るが、そこに若い女の声で助けを求める電話が入る。メッセージを聞いた2人は尾崎の代わりに女のもとに駆けつけるが、怪しげな車が発進しただけだった。

徐々に明らかになる同じ誕生日・同じ町出身という、今村と尾崎の因縁。ゆえに今村は、プロでは控えに甘んじているが甲子園ではヒーローだった尾崎に特別な気持ちを抱いている。それは気が付くと仮想してしまう、別の人生に対する複雑に捻じ曲がり交差する羨望と諦観と落胆と感謝。しかし、空き巣に身を落としスポットライトを浴びた経験などないショボい青春でも、困った人を助けずにはいられない今村にはきっといいことがあるはず。現に若葉や黒沢・師匠ら人間関係に恵まれ、口は悪いが大切に育ててくれた母もいる。幸せの形は人それぞれ、現在を肯定しないと心は充たされないとこの作品は教えてくれる。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

それでも、「万有引力の法則」も「三角形の内角の和」も知らない今村の頭ではすっきりと事態は割り切れず、考えれば考えるほど錯綜した思いは絡まって整理がつかなくなり、大声で尾崎に声援を送るしか己の感情を宥める術はない。そんな、小さな体に大きな苦悩を抱えながらも精いっぱい生きようとする今村をつい応援したくなった。だが、やはり最後は今村と尾崎にもう少し試練を与えたほうが余韻が残ったのではないだろうか。彼らの未来はこれからも続くのだから。。。

↓公式サイト↓