こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

聴こえてる、ふりをしただけ

otello2012-05-25

聴こえてる、ふりをしただけ

オススメ度 ★★★*
監督 今泉 かおり
出演 野中はな/郷田芽瑠/杉木隆幸/越中亜希/矢島康美
ナンバー 125
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

たたまれたままのエプロン、ごみと髪の毛が吹きだまったカーテンの下、ホコリがうっすら積もった椅子の背もたれ。当たり前の日常を壊してしまう大切な人の死、その不在をありふれた家の中の光景で表現するセンスが光っている。みんな“いつもそばで見守ってくれる”と言う。自分もメッセージを送ってくれないかと期待している。お化けは嫌だが魂は存在すると信じていたい。少女は矛盾する思いと周囲の気遣いを受け止めきれず、気持ちをうまく整理できない。無邪気な子供ではないが大人になるには早すぎる、映画は多感な年ごろのヒロインの不安定で繊細で本人も持て余してしまう感情を、クローズアップを多用したシャープな映像に昇華していく。

母を事故で亡くした11歳のサチは、形見の指輪を身につけて登校している。ある日、クラスに知的障害児の希が転校してくる。お化けを怖がり一人でトイレに行けない希にサチは付き添うようになる。

大人もクラスメートも腫れものに触るようサチに接するなか、希だけは幽霊や魂など無遠慮に口にする。サチはほとんど不機嫌な表情を崩さないが、時に希の言葉に癒され、時に傷ついているのだろう。大人は嘘をつくのに希は正直、だから希に親切にしたり意地悪したり、彼女が好きだけれどムカついたりもする。一方で、家では父がショックから立ち直れず精神のバランスを崩していく。誰かに胸の内を打ち明けたいがどうすればよいのかわからない、サチの心がリアルで切ない。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

ところが、あらゆる知覚や情動が脳の働きによるものだと授業で教わると、希はお化けを怖がらなくなるばかりか魂などないとサチの前で断言する。どれだけ待っても母の魂は答えてくれないが、それでも母を身近に感じていたいサチは母を否定された気になる。そして指輪との決別。死んだ者は二度と戻らないという現実から目をそむけさせることなく、子供たちの顔を未来に向けさせる、そんな優しい眼差しに満ちた作品だった。

↓公式サイト↓