こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

灼熱の肌 

otello2012-05-31

灼熱の肌 Un ete brulant

オススメ度 ★★*
監督 フィリップ・ガレル
出演 モニカ・ベルッチ/ルイ・ガレル/モーリス・ガレル/セリーヌ・サレット/ジェローム・ロバール
ナンバー 129
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

私だけを見つめていてほしいという気持ちが強すぎるゆえに、女はいらだちを隠しきれない。友情を大切にしたい男は、女の思いを受け止めきれずに戸惑うばかり。お互いに必要としているのに些細なことで傷つけあう相似形の2組のカップルの愛は、同じ方向に進んでいるのに着地点は正反対。どこで歯車が狂い、どうすれば修復できるのか、またはできないのか、映画は、4人の男女間の微妙なバランスの上でつま先立ちするような繊細な“愛”の真実に迫る。画家と俳優、生活のリアリティが希薄な職業についているおかげでまっすぐに愛と対峙できる一方で、愛以外に目を向けるパートナーが許せない。そんな、息苦しいほどの不器用な愛し方しかできない彼らの心象風景をカメラは丹念に掬い上げていく。

貧乏役者のポールは端役女優のエリザベートとともに、画家のフレデリックと女優のアンジェル夫婦のローマにある邸宅を訪ね、一緒に暮らし始める。ポールとフレデリックは親交を深めるが、エリザベートとアンジェルは淋しさを膨らませていく。

フレデリックもアンジェルも愛するよりも愛されるのを多く望み、結果的に破たんしていく。嫉妬が怒りになり不信感が芽生え、言い寄ってくる新たに男が現れるとアンジェルはすぐそちらに乗り換える。相手への思いやりよりも、己の「愛されたい」欲求を周囲に押し付けるふたり。それは利己的な自己愛でしかないのに彼らは気付かない。そのあたりに大人の分別を持ち込まず、あくまで感情を優先させる姿が愚なほど純粋だ。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

そして、彼らの愛が壊れていく様子をそばで見ているポールとエリザベートも、自分たちの関係を見直していく。だが決定的に違うのはエリザベートの妊娠。後にパリの路上でベビーカーを押すエリザベートは、もはや愛されたい女ではなくわが子への愛情に満ちた母になっている。人生の様々なシーンで愛の形は変わる。アンジェルに愛を注ぐ対象を与えてやれなかったフレデリックの後悔が、映像に暗く哀しい余韻を残していた。

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