こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ハングリー・ラビット

otello2012-06-19

ハングリー・ラビット SEEKING JUSTICE

オススメ度 ★★★*
監督 ロジャー・ドナルドソン
出演 ニコラス・ケイジ/ジャニュアリー・ジョーンズ/ガイ・ピアース
ナンバー 151
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

殺人、レイプ、児童ポルノ…。そういった卑劣な悪行を憎み、司直にかわって悪党に鉄槌を下す仕事人たち。だが彼らはみな素人で犯人との接点のない者が選ばれる。そんな組織に借りを作ってしまった男が、意に染まない指令を受け、拒むと圧力をかけられる。協力者は町中にいる、そしてすぐそばにいる人間かもしれない。映画は、代理殺人契約を結んでしまった高校教師が味わう恐怖と湧き上がる怒りをサスペンスフルに描く。良心を失った正義が陥る独善、それが力を持ち、誰も暴走を止められなくなった恐ろしさが、主人公の感情を通してリアルに再現される。

妻をレイプされたウィルは、病院でサイモンと名乗る男に犯人を殺してやると持ちかけられ承諾、ほどなく奪われたネックレスと証拠写真が送られてくる。代わりにウィルはサイモンから見知らぬ男の殺害を命じられ、実行しようとするが、相手は気鋭のジャーナリストだった。

いたるところで「空腹のウサギは跳ぶ」と囁かれる。合言葉を知る者はすなわちサイモンの配下、つまりその根は深く広く社会に浸透し、治安を守るためには殺人も辞さないと密かに考える人々が相当数いるということ。しかもカネではなく殺人によってでしか清算できない。己の手は汚さずに安易な復讐を望んだ後悔、やがてタダより高いものはないのをウィルは思い知らされる。神出鬼没で何でもお見通し、悪魔のように振る舞い視線だけで見つめられた者を震え上がらせるサイモンをガイ・ピアースがミステリアスに演じている。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

おそらく自分もしくは肉親が犯罪被害に遭った人々は、一時的には誰しも犯人を殺してやりたいと思うはず。普通の市民が、司法が野放しにする凶悪な犯罪者に対する恨みを晴らすには、理性で制御された闇の暴力を行使するしかない。ゆえにサイモンの組織を生み出す素地は十分にあるのだ。そう思わせるほど米国の現実は切迫しているのだろう。ウィルが命がけで守ったDVDの行方が、また別の“サイモン”を待望する可能性を暗示し、代理殺人の需要の高さを物語っていた。

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