こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

凍える牙

otello2012-06-29

凍える牙

オススメ度 ★★★
監督 ユ・ハ
出演 ソン・ガンホ/イ・ナヨン/シン・ジョングン/イ・ソンミン
ナンバー 153
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

有能さゆえに男社会からつまはじきにされる女と、チームプレーになじまない男。2人は反発しながらも徐々に能力を認めあい、お互いを思いやる気持ちを育くんでいく。その過程で、警察組織における人間関係の難しさと、女性の地位の不当な低さといった問題点があぶり出される。物語は奇妙な連続殺人を追ううだつの上がらない中年刑事とバツイチ美人刑事のコンビが、複雑な背景と恐るべき真実に辿り着くまでを描く。ターゲットの臭いを数キロ先から嗅ぎ分けて気配もなく忍びより、一瞬のすきを突いて喉元にかみつく、高度に訓練された生き物の知性あふれる鋭い眼差しが印象的だ。

焼身自殺を偽装した死体から犬の噛み痕が見つかり、その後売春組織のチンピラが犬に襲われ死ぬ。担当となったサンギルは新人女刑事・ウニョンを押し付けられ憤慨しつつも、チンピラの死につながる犬の訓練センターを調査する。

出世で後れを取り家庭も崩壊状態のサンギルと、せっかく憧れの刑事になったのに忙しさゆえ夫に逃げられたウニョン。手柄を立てようと暴走するサンギルに付き合わされるウニョン。はみ出し者の2人は相手の事情を理解するにつれ孤立していた心を和ませていく。さらに捜査を進めると、狼との雑種犬が浮かび上がってくる。娘を凌辱された男の復讐の道具として殺人マシーンに育てられたその狼犬は、ウニョンにどこかで通じるものを感じたのだろう、ウニョンが乗るバイクを闇でうごめく悪党たちのアジトに導いていく。映画は、狼犬を使った殺人事件の猟奇性と処世術を欠いた刑事たちの不器用な生き方を対比させた上で、哀しみに満ちた犯人の動機に迫っていく。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

真相を知ってしまったウニョンは、もはや命を狙われる悪党よりも犯人と狼犬に同情する。狼犬はそんなウニョンの心中を察しているのか、決して彼女に敵意を見せたりはしない。刑事の職責と人間の正義感に揺れるウニョン、飼い主の恨みを晴らそうとする狼犬、事件は解決するがやりきれなさがばかりが残る作品だった。

[ :title=↓公式サイト↓]