こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ゴッド・ブレス・アメリカ

otello2012-07-02

ゴッド・ブレス・アメリカ GOD BLESS AMERICA

オススメ度 ★★★*
監督 ボブキャット・ゴールドスウェイト
出演 ジョエル・マーレイ/タラ・リン・バー/マッケンジー・ブルーク・スミス/メリンダ・ペイジ・ハミルトン/リッチ・マクドナルド
ナンバー 163
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

クソ生意気なわがまま娘、マナーを守らない若者、弱者を笑いものにする司会者、差別を喧伝する宗教家etc. 憲法に保障された「自由」を「やりたい放題する権利」とはき違え、他人の気持ちを土足で踏みにじるヤツらを容赦なくぶっ殺す。もう長くは生きられず少しでも世の中をよくしてから死のうと思うオッサンの怒り、両親といても苦痛しか感じない少女の絶望。2人の孤独な魂が切ないメロディに導かれ我慢の限度を越えていく。たまりにたまった鬱憤を銃弾に込めて世直しの旅を続ける中年男とティーンエージャーは、どこか哀愁を漂わせ重い運命を背負っているかのよう。同工異曲の作品群の中でも特に主人公の“やりきれなさ”がリアルで共感を呼ぶ。

日常にうんざりしているフランクは妻子に見捨てられ会社もクビ、おまけに治療不可能な脳腫瘍と診断される。翌日、隣人のクルマを盗むとかねてから腹立たしかったセレブ女子高生を銃殺、たまたま通りかかったロキシーに称賛される。

自殺を図るフランクをロキシーは巧みに説得し、女子高生の両親も殺害、逮捕されるのをただ待つよりはと、世間にはびこる不届き者どもを一掃する長いドライブに出る。その過程で彼らが標的にするのは、“一瞬でも殺意を抱くほど不快な思いをさせられたバカ”だけで、実際に引き金を引くほどではないにしろ迷惑千万な存在。フランクは決して追い詰められた狂人や勘違いのヒーローではなく、あくまで普通の人間の延長として描かれているところに、不況による閉塞感、他者への配慮が希薄になった人々といった、現代社会の病巣が凝縮されていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

やがてフランクは知的障碍者を見世物にするオーディション会場に乱入、合流したロキシーとともに審査員を血祭りに上げていく。その根底にあるのは、謙虚さや思いやりなど本来人間が持つべき美徳を徹底的に破壊し、米国人を“ジコチューで攻撃的”に洗脳する低俗番組ばかり垂れ流すTVへの義憤なのだ。もはや未来がないのはわかっている、それでも人生を全うしようとする彼らの姿に心が浄化されていく。。。

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