こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

やがて哀しき復讐者

otello2012-07-20

やがて哀しき復讐者 報應

オススメ度 ★★*
監督 ロー・ウィンチョウ
出演 アンソニー・ウォン/リッチー・レン/キャンディ・ロー/ジャニス・マン
ナンバー 174
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

どれほど親不孝でも、わが子を思う気持ちは親なら変わりない。バカ娘を惨殺された父は報復を誓い、彼の手先となって直接手を下す殺し屋は反抗期の息子を遠くから見守るのみ。そんな、子供のほうから一方的に断絶された親子関係が痛ましい。映画は拉致され殺された娘の無念を晴らそうとする男の怒りと苦悩、後悔と喪失感を描く。鮮やかな現金受け取りの手口、小さな手がかりから真相に近づくミステリーの味付け、壮絶な暴力の連鎖、そして微かに残った人の情。それらが複雑に入り組んだ展開の根底に流れる「愛」という感情は、大いなる哀しみに満ちている。

不動産開発業者の社長・ウォンの娘・デイジーが誘拐され身代金を奪われるが、デイジーは死体で発見される。ウォンは部下で闇社会にコネを持つチュウに犯人を捜し出せと命じる。

ウォンがあくまで自分とチュウ1人で事を運ぼうとするのは、デイジーがカネ目当てに仕組んだ狂言と思い込んだ以外にも進行中の立ち退き計画に警察の介入を恐れたからだろう。捕まえた実行犯を後ろ手に縛って首に縄をかけ膝を砕いて処刑するシーンは思わず目を覆いたくなる凄惨さで、チュウのような腹心を持つこと自体、表向きビジネスマンを装っているウォンも実はかなり強引な手段で開発を進め多くの人に恨みを買っていると連想させる。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

やがて、ウォンとチュウは意外な裏切り者を見つけるが、その人物がわが子の命だけは守ろうとする姿に、復讐の決意を緩めてしまう。結局、デイジーの死も、チュウの息子が彼になつかないのも、親子の絆を深める時間が少なく己の勝手な価値観を押し付けていたのが原因だと悟るのだ。憎悪に支配され冷静さを失っていたウォンとチュウが人間の心を取り戻し助けの手を差し伸べるシーンにわずかな救いが込められていた。あと、船の上で行う慰霊行事で魚を海に放流したり、共同墓地に「壽」と朱書きされた紙が貼ってあったりと、中国人の死者に対する振る舞いが興味深かった。

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