こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

汚れた心

otello2012-07-25

汚れた心 CORACOES SUJOS

オススメ度 ★★*
監督 ヴィセンテ・アモリン
出演 伊原剛志/常盤貴子/余貴美子/菅田俊/大島葉子/セリーヌ・フクモト/エドゥアルド・モスコヴィス/奥田瑛二
ナンバー 183
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

外部からの情報が遮断された世界では、たとえ歪んでいても希望が生きる力となる。人々は信じたいことしか信じない。その結果、狂信的なリーダーが舵とりを誤っても、疑念を封印してしまう。敗戦直後の在ブラジル日本人社会、映画はそんな状況下で起きたテロの真実を暴いていく。もちろん愛国心は大切だが、合理的根拠もなく日本は戦争に勝ったと喧伝する軍人を奥田瑛二が熱演、思わず嫌悪感を覚えるほどの存在感を示す。事実を知ってもなお妄信を曲げず人々を騙し続けられると思っている狭量さは滑稽ですらあり、人間の尊厳を奪う全体主義を見事に体現していた。

日本降伏のニュースが届かない日本人コミュニティは元大佐のワタナベに牛耳られていた。ある日、ワタナベを中心に数人の日本人が憲官の取り締まりに対して暴動を起こすが、そのうちの1人・写真屋のタカハシは、取り調べの際通訳したアオキを暗殺せよとワタナベに命じられる。

現地のラジオ放送で、タカハシも薄々ワタナベの嘘に気づいている。いや、そこで暮らす日本人ほとんどが同じ気持ちだったろう。しかし、それまで叩きこまれて来た軍国教育の価値観を否定する勇気はなく、ワタナベの言いなりになっているだけなのだ。現状を冷静に見つめずに対策を怠り、硬直した思考に邪魔されて滅びゆく典型的なパターン。だが、選択の自由はない。愚かな指導者とイエスマンばかりの幹部、そして現実に目を向けた同胞を国賊呼ばわりして粛清する愚行。「大和魂」や「神国日本」という精神論しか口にしないワタナベの姿はもはや悲しい喜劇でしかない。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

ただ、日本人が知らない日本人の歴史にスポットを当てたのには意義は感じるが、話の流れがぎこちなく、登場人物の掘り下げも浅い。もっと、自らの意思に反して手を血で汚してしまったタカハシの苦悩や、ワタナベの過去のトラウマを描き込むなどいくらでも工夫の余地はあったと思うのだが。。。

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