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映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

カルロス CARLOS 第三部

otello2012-07-28

カルロス CARLOS 第三部

オススメ度 ★★★*
監督 オリヴィエ・アサイヤス
出演 エドガー・ラミレス/アレクサンダー・シェアー/アフマド・カーブル/ノラ・フォン・ヴァルトシュテッテン/ジュリア・フンマー/クリストフ・バッハ/タラル・エル・ジョルディ
ナンバー 184
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

世界が革命の情熱に燃えていた時代は過去となり、いまや札付きのテロリストに過ぎない。共に血を流した同志たちは去り、後ろ盾となってくれていた反資本主義・反帝国主義を標榜する指導者たちからも見放されていく。第三部では、有名になりすぎたゆえに身動きが取れなくなり、やがてただの“殺し屋”に堕ちていく主人公の愛と孤独、苦悩と絶望を描く。その狂気と紙一重の独善は彼自身ですら止められなくなり、次々と隠れ家を追われ、包囲網は狭められていく。そして裏切りと別れ。かつての精悍さは影を潜め、でっぷりと贅肉の付いた腹周りが、彼の信じた“人民解放”の理想の堕落を饒舌に物語る。

ブダペストに拠点を作り潜伏していたカルロスは、リビアカダフィ大佐からサダト・エジプト大統領の暗殺を請け負う。一方で東欧諸国からは滞在を拒否され、支援国だったシリアからも援助を打ち切られる。

'80年代に入り、米ソ軍拡競争の陰で新左翼はすっかり古臭くなり、カルロスたちは活躍の場を失っていく。CIAからは“歴史的骨董品”と呼ばれ、国際社会からは“いつでも殺せるが殺さない”シカト状態に置かれてしまう。友人たちは手のひらを返し、新たな支援者・イランも「敵の敵」だから匿っている。妻にも逃げられ娘にも会えない。それでも“革命戦士”の矜持は持ち続けるカルロス。彼にとっては現代史の表舞台から忘れられることこそ最大の屈辱だったに違いない。しかし、もはや彼に資金や武器を提供する国はなく、信頼できる部下もいない。結局、武装闘争の先に何があるのか明確なビジョンがなかったカルロスは“巨大権力に立ち向かう勇者”という自画像に酔っていただけなのだ。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

三部作を通じて、欧州・アラブ・アフリカにまで舞台を広げ、英語仏語独語アラビア語など多数の言語が飛び交う、まさにグローバル規模の映像は、'70〜'80年代の国際情勢の裏事情を等身大のカルロスの目を通して実体験しているようなリアルな緊迫感があった。5時間を越える長尺ながら最後までテンションが途切れない力作だ。

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