こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

夢売るふたり

otello2012-08-04

夢売るふたり

オススメ度 ★★★*
監督 西川美和
出演 松たか子/阿部サダヲ/田中麗奈/鈴木砂羽/木村多江/安藤玉恵/江原由夏
ナンバー 191
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

浮気して朝帰りした夫を熱い風呂に入れて問い詰める妻。気立てがよく笑顔を絶やさない働き者だった彼女から表情が消え、夫の嘘をすべて見透かすような視線を突き立てる。火を付けた札束を夫に投げつけ、心の奥底に眠っていた悪意に彼女が目覚めた瞬間の描写は、背筋が凍るとともに微妙にずれた空気がおかしさを誘い、この作品のテーマである人間の多面性を象徴するシーンになっている。仲が良かった夫婦が結婚詐欺を繰り返すうちに、本人ですら自覚していなかった己の深層心理と、お互いが知らなかった相手の本性に気づいていく。ふたりの関係が共犯者に変わっていく過程で見せる、男と女の駆け引きがスリルとアイロニーに溢れていた。

小料理店を営む貫也と里子は火事で全財産と夢を失う。ある日、貫也が常連客だった女と寝て大金をもらったことから結婚詐欺を思いつき、新たに夫婦で勤め始めた料亭でカモを物色する。

寂しい女を見抜く能力に長けた里子は貫也をコントロールして、貫也は言葉巧みに女たちからカネを引き出していく。出版社OL、重量挙げ選手、デリヘル嬢など、満たされぬ思いに悶々としながら自分の気持ちに寄り添ってくれる男を求める女たちは、次々と貫也と里子の罠に落ちていく。里子を演じた松たか子は、人を欺く行為に開放感と後ろめたさを感じている彼女の感情を、獲物を物色する獰猛さといつか悪事がばれるのではという恐れの入り混じった複雑な光が同居した目で表現する。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

懐の固い重量挙げ選手にいらつく里子は貫也に当たり散らすが、その際、結婚詐欺の動機がカネではなくカネに不自由しない女に対する腹いせだと貫也に看破される。まじめに働いていた里子が落ちる“越えてはならない一線”と一度踏み外してしまった後の彼女の腹のくくり方、そして貫也に騙されていると感づきつつも彼を疑うのは自身の愛の否定と思いこむ女たち。男には理解しづらい女たちの生理と思考が生々しいまでのリアル感で再現されていた。

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