こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

アイアン・スカイ 

otello2012-08-10

アイアン・スカイ IRON SKY

オススメ度 ★★*
監督 ティモ・ヴオレンソラ
出演 ユリア・ディーツェ/ゲッツ・オットー/クリストファー・カービー
ナンバー 197
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

月の裏側に築かれた忌まわしい鍵十字型の秘密基地。いまだヒトラーとその後継者に忠誠を誓うナチの残党たちは世代を超えて生き残っている。だが彼らが説く理念は、近未来の米国大統領にとっても世界を支配する力を持つ黄金の指環のように輝いて思えてくる。映画は地球侵攻を目論む月面のナチと地球を守るべく協力する主要国のリーダーたちを尻目に、謀反を起こそうとする野心家と彼の婚約者・黒人宇宙飛行士らが入り乱れて壮大なスペースオペラの絶景を見せる。月面基地から宇宙戦艦までSF的な小道具の作りこみが細部まで完成度の高い映像に、ワーグナーの旋律が見事にシンクロしていた。

2018年、月面探査に向かった黒人宇宙飛行士・ジェームズは、地球再侵攻を目論むドイツ軍に捕えられて白人化された上、次期総統・アドラーとともに斥候としてNYに送りこまれる。彼らのミッションにアドラーの婚約者・レナーテが密かに同行していた。

折しも米国は大統領選挙キャンペーンの真っただ中、レナーテの友愛主義が選挙公報官・ヴィヴィアンのメガネに叶いアドラーとともに選対スタッフに採用される一方で、ジェームズはイカれたホームレスに落ちぶれている。このあたり主要な登場人物のキャラが立ちすぎて方向性がバラバラで、それが物語の進む先を予測させない危うさと期待を孕んでいる反面、まとまりを欠いている。フィンランド人のティモ・ヴオレンソラ監督はナチと米国に対する嫌悪感をクールな笑いに包んでいるが、一発芸的小ネタの連続に終わるのではなく、もっと練りこんだブラックジョークをカマしてほしかった。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

やがて、月面ナチ軍は巨大宇宙船の大艦隊で地球に総攻撃を仕掛けてくる。米国だけなく各国が極秘に打ち上げていた宇宙兵器で迎え撃つのだが、ここでもあくまで利己的に行動し、民主主義など各国の“国益”の前ではなんの役にも立たない現実を戯画化する。そしてタカ派大統領の名を冠した戦艦による大量破壊は人間の愚かさをシニカルに描き切っていた。

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