こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

桐島、部活やめるってよ

otello2012-08-14

桐島、部活やめるってよ

オススメ度 ★★★★
監督 吉田大八
出演 神木隆之介/橋本愛/東出昌大/清水くるみ/山本美月/松岡茉優/落合モトキ/浅香航大/前野朋哉
ナンバー 202
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

態度がでかい運動部員、まじめな生徒に冷視線を送る帰宅派、美人を鼻にかけている女生徒etc. 高校生的にはまったく冴えない自分を見下したヤツらと、そういった価値観を許容する学校システムを破壊したいが、知恵や腕力ではかなわない。ならば血肉に飢えた屍となって復讐するしかない……。映画は同じ日の出来事を、主観を変えて繰り返すことで奇妙な緊張感をうみ、日常のひとコマの底流にうごめく感情をあぶり出す。それは、誰もが抱えている他人への攻撃性。しかし、一方で彼らの素直な気持ちも表出させて微妙なバランスを保っている。

学年一の優等生で人気者の桐島が突然バレーボール部を辞め連絡を絶つ。彼が仕切っていた部はチームワークが乱れ、クラス内の序列にも影響するが、映画部の前田はオリジナル脚本のゾンビ映画の製作に夢中になっている。

部活と教室の均衡が崩れる過程で、友人たちの抑えられていた繊細な思いは黒い澱となって顕在化する。前田は距離を取っているが、図らずも巻き込まれてしまう。同時に中学時代からの同級生でバドミントン部美少女のかすみと映画話で盛り上がるなど、前田にとってはうれしいハプニングも起きる。物語は10人余りの主要登場人物が桐島の退部をきっかけに己の本心に気づく姿を散文的に描き、青春のきらめきや情熱よりも学園生活という社会の縮図をリアルに再現した上で、反感と共感をシンクロさせていく。絶妙の構成には一瞬たりとも気を緩められない。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

やがて桐島現るの情報が校内を駆け廻り、前田らのロケ現場にクラスメートたちが乱入して撮影をぶち壊す。怒った前田はゾンビ役部員に“彼らに襲い掛かれ”と命じ、その光景をカメラに収めていく。それはオタクとバカにされていた前田たちのわずかなプライドが爆発する瞬間、たとえ虚構であっても、クリエーターにはそんな“妄想力”が必要なのだ。カタルシスとはほど遠い現実だったが、桐島の不在で少しだけ成長した前田の表情が心地よい後味をもたらしてくれた。

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