こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

BUNGO〜ささやかな欲望〜

otello2012-08-31

BUNGO〜ささやかな欲望〜

オススメ度 ★★★
監督 冨永昌敬/西海謙一郎/熊切和嘉/関根光才/山下敦弘/谷口正晃
出演 石原さとみ/宮迫博之/水崎綾女/谷村美月/大西信満/橋本愛/リリー・フランキー/山田孝之/成海璃子/波瑠/三浦貴大
ナンバー 214
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

恋人、親子、隣人、知人、友人、夫婦、それぞれの関係の中から浮かび上がってくる人間の真実。映画は日本の文壇に名を残した作家たちの短編の中から素材を得、愛や嫉妬、劣情や憧れ、誤解といった感情の行き違いを、6つのエピソードにまとめる。1編を除いて20世紀の前半に舞台を設定しており、その当時の人々も現代人と変わらぬ苦悩を抱いて生きていたことがしのばれる。もちろん技術文明の差からその解決法はまったく違うしが、それでも人の考え方などいつの時代もあまり変わらないのだ。

注文の多い料理店」は山に狩りに出かけた倦怠期の不倫カップルが、慰謝料惜しさ・欲しさに自分から別れ話を切り出せないうちに辺鄙なレストランに入る。口先だけの甘い言葉と裏腹に、ふたりともエゴ丸出しにする姿が彼らの本性を衝いていた。

「乳房」は、胸が膨らみ始めた少年が、誰にも相談できずに悩むうちに、近所に住む若妻のもとで女の体を知る。厳格な父親が思春期の息子と夫を戦争に取られて若い肉体を持て余している妻の双方を案じて、それとなくふたりに場を提供してやるという気配りを見せるあたりが趣深い。

「人妻」は階下で夜ごとなまめかしい嬌声を上げる人妻の肢体に妄想を抱く下宿人の欲望を掘り下げる。己の分身が耳元で “悪魔のささやき”をするが、男はなかなか踏ん切りがつかない。その煮え切らない様子はいかにも小市民的だ。

「鮨」は、すし屋の看板娘が常連客の老人に幼いころの思い出話を聞かされる。食べ物への不潔感を拭えず卵と海苔以外口にできなかった少年が、いかにして極端な偏食を克服したか。母の息子への愛情がノスタルジックに描かれる。

「握った手」は同級生に恋した大学生が、その思いを彼女にぶつけるが、一方で女給とも付き合っていたと告白する奇妙な味わいのある作品。恋は考えてするものではなく直感でするものであると教えてくれる。

最後の「幸福の彼方」、見合い結婚した夫婦がお互いに隠していた秘密を打ち明け合ううちに、相互補完のような過去が明らかになっていくが、そこに至る夫婦同士の思いやりや愛情が濃やかなタッチでスケッチされる。アコーディオンを弾きながら物を売る行商が昭和初期を感じさせる。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

「見つめられる淑女たち」と銘打たれた前半の3作品は、登場人物も少なくロケやセットも小ぶりでコストをかけていない気がするが、「告白する紳士たち」の後半3作品、とくに「幸福の彼方」は凝った作り。ヒロインを演じた波瑠の凛とした美しさと奥ゆかしい笑顔が強く印象に残った。