こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

危険なメソッド

otello2012-09-01

危険なメソッド A DANGEROUS METHOD

監督 デヴィッド・クローネンバーグ
出演 マイケル・ファスベンダー/ヴィゴ・モーテンセン/キーラ・ナイトレイ/ヴァンサン・カッセル
ナンバー 216
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

目玉をむき出しにし、下あごを突出し、眉間にしわを寄せ、頬を引きつらせる。顔中の筋肉を総動員して、次々と湧き上がる恐怖と怒り、不安と疑念、苛立ちと憎しみといった感情を表現する。激しいヒステリー症状で精神病院に収容されたヒロインを演じるキーラ・ナイトレイの恐ろしいまでに気迫のこもった表情の変化は、リアリティを超えた圧倒的な迫力。人間の胸の奥に巣食う闇の部分の硬さと脆さと攻撃性を見事に再現していた。映画は、彼女と担当医・ユングの一線を越えた愛に焦点を当て、リビドーの自制こそが精神の自由を奪っていることを訴える。

スイスの精神科医のユングは美しい患者・ザビーナにフロイトの提唱する対話療法を試み、改善に成功する。数年後ウィーンのフロイトを訪ね初対面で意気投合、フロイトユング精神分析学の後継者と指名して親交を深める。

フロイトは薬物依存症の精神分析医・グロスの身柄をユングに託すが、グロスの“快楽に身をゆだねろ”という言葉がユングのザビーナに対する思いに火をつける。ユングはザビーナへの欲望を満たし、ザビーナもまた己のリビドーに従いつつ精神医学への道を邁進する。「精神科医が精神を病む」「精神を病んだ者が精神科医を目指す」。他人の心を治療する立場である医師の心も壊れる一見矛盾した構図が、精神医学の危うさとそれにもまして精神の複雑さを象徴する。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

やがてフロイトとの関係にも隙間ができ始めるユング。2人で渡米したとき、自分だけさっさと妻が予約した1等客室に行くユングの無神経さが彼らの距離感を決定づけていた。その後も、ユングはザビーナとも離縁復縁を繰り返したり新たな愛人を作ったりと、“抑圧”を解放するのに忙しい。しかし、たとえ不倫であっても恋愛やセックスはもっと楽しむべきものなのに、真面目なドイツ人気質のユングは心理回路も思考回路もそちらの方向には向かず、むしろ研究の延長のよう。ユング本人は、そんな自身の気持ちをどのように解釈していたのだろうか。人の心同様、“理解したつもり”の先に謎を残し、大いにイマジネーションを刺激する作品だった。

オススメ度 ★★★*

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