こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

終の信託

otello2012-10-19

終の信託

監督 周防正行
出演 草刈民代/役所広司/浅野忠信/大沢たかお
ナンバー 187
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

人を死なせる権限が果たして医者にあるのか。病気やけがに苦しむ人を助けるのが使命ならば、患者が抱える耐えがたい肉体的精神的苦痛から解放してやるのもまた仕事と信じる女性医師。一方、彼女の行為を“殺人”と断罪しようとする検事。映画は、患者と医師の間に流れる穏やかな時間と、検事と医師の間に張りつめた刺々しいテンションを対比させ、医師は患者の尊厳をどう守るべきかを問う。もちろん正解はなく結末も釈然としない。それでも、人間ならば確実に待ちうける“死”の宿命に対しどんな心構えをしなければならないか考えさせられる。少なくとも安楽死を選びたければ元気なうちから文書にして残しておけと。

呼吸器科の医師・綾乃は重症の喘息患者・江木から延命治療しないよう歎願される。ある日、江木が心肺停止状態で救急搬送され綾乃が病状を見守るが、すでに脳機能は低下し回復の見込みはない。綾乃は家族の同意を得て江木の人工呼吸装置をはずす。

不倫と自殺未遂で悩んでいた綾乃を江木は優しく勇気づけ、医師と患者の関係以上の思いがふたりの間には芽生えている。だからこそ江木は延命拒否を綾乃に頼んだのだが、あくまでふたりだけが知ること。それを検察に呼び出された綾乃が待合室で回顧する構成は、もしかしたら江木とのエピソードは綾乃の作り話かもと思わせる効果があり、心理的に不安定な綾乃の危うさが垣間見えてくる。そして検事は彼女に質問し話を聞きだしつつ事の本質をついていく。検事の言葉の刃を綾乃がいかにかわすか、スリリングな密室の会話劇は、一瞬たりとも気が抜けない濃密な映像となり見る者をスクリーンにくぎ付けにする。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

綾乃は、悲劇をたくさん経験してきたゆえ無表情になったという設定なのだろう。だが、彼女に扮した草刈民代はのっぺり感じが目立ち、硬軟取り混ぜ感情をむき出しにする検事を演じた大沢たかおとは対照的。重いテーマだけに、綾乃の繊細な心情のみならず深い愛情やかすかな後ろめたさも表現してほしかった。。。

オススメ度 ★★*

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