こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

宇宙人王さんとの遭遇

otello2012-10-24

宇宙人王さんとの遭遇 L’ arrivo di Wang

監督 アントニオ・マネッティ/マルコ・マネッティ
出演 エンニオ・ファンタスティキーニ/フランチェスカ・クティカ/ジュリエット・エセイ・ジョセフ
ナンバー 260
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

心の奥まで見透かすような黒光りする瞳、それは真実を語っているのか、狡猾さを覆い隠そうとしているのか。時に弱々しく慈悲を乞うが、自説を絶対に曲げない強い意志もにじませる。驚きや怒りには反射的に反応し頭部を鶏冠のように広げるが、そのほかはほとんど感情が読み取れない。物語はそんな宇宙人を秘密機関のエージェントが取り調べる過程で、“エイリアン”の扱いについて考察を加える。知性を備えた生物には人権を認めるべきか、拷問は許されるのか。映画は奇妙な事態に巻き込まれたヒロインの目を通して、馴染みのない者に対する接し方を問いかけていく。

ローマに住む中国語翻訳者・ガイアは、高額なギャラで中国語を話す宇宙人・ワンさんの通訳を引き受ける。ガイアはキルティ捜査官の執拗で悪意のこもった尋問に嫌悪感を抱き、文化交流のために地球にやってきたと繰り返すワンさんに次第に同情していく。

ワンさんとは、今や世界中で政治的経済的な脅威となった中国人の象徴。もちろん安価な労働力と巨大な市場は資本主義社会にとって大きな魅力だが、一方、欧州であれどこであれ移住先の地元に溶け込もうとせず自分たちの価値観を保持しようとする彼らに、漠然とした不気味さは拭いきれない。民族・出身で偏見や差別はいけないと頭では理解しているが、一度甘い顔を見せてしまうと食い物にされてしまうのではといった不安。イタリアではまだ宇宙人を使ったジョークで済まされるのかもしれないが、すでに池袋や新宿といった「新興チャイナタウン」が現実となっている日本では、より切実なリアリティを持って見る者に迫ってくる。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

結局、異文化や異文明と出会ったとき、相手に良心や善意を期待するのは墓穴を掘る結果になる。中国語を話す者を信用するなというこの作品の教訓は、領土問題でくすぶっている日本人にとっては共感を呼ぶ部分が少なからずあるはずだ。もちろんあらゆる中国人を敵視する後味の悪さは否めないが。。。

オススメ度 ★★

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