旅の贈りもの 明日へ
監督 前田哲
出演 前川清/酒井和歌子/山田優/葉山奨之/清水くるみ
ナンバー 185
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています
叶えられなかった望み、守られなかった約束、人生に残された宿題。42年ぶりに過去の扉を開いた男は遠き日の思い出を今に蘇らせようとする。そしてあの時の“なぜ”の答えを求めて一枚のはがきを手に特急列車に乗る。物語は定年退職後暇を持て余した主人公が古いはがきを手掛かりに、差出人に会いに行こうとする姿を追う。ままならぬ日々に悶々としたあの頃、たった1日だけのデートが大人になっても自分を支えていた。1人暮らしの寂しさに耐えかね、その時のときめきをもう一度味わいたいと願う彼の胸の内が切なくリアルだ。海は近く空は大きい町、福井を舞台にさまざまな人の思いが交錯する。
離婚して25年、サラリーマン生活を終えた孝祐は、荷物の整理中に周囲が焼けたスケッチを見つける。それは美大受験を目指していたころ、同じ目標を持つ文通相手・美月からの挿し絵はがきだった。孝祐は美月の消息を訪ねる旅に出る。
高校時代、美術の道に進むことを父に反対され道具を燃やされた孝祐は家出、美月が住む福井に向かう。小ぶりな天守閣の城、どこまでも続く砂浜、心まで温まったラーメン、ホームでの別れ。まだ少年少女だったころのふたりが悩みを打ち明け夢を語るシーンは瑞々しい若さにあふれ、青春のきらめきを放つ。なにより、はがき1枚ずつに丹念に風景を描き相手に送る、気持ちのこもったコミュニケーションが懐かしかった。
◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆
ただ、現在の孝祐が音信不通の美月を探す過程は小さな事実を積み重ねる構成にすべきだろう。はがきの住所を尋ねたら更地、近所の聞き込みから始め、勤めていた旅館にたどり着き、そこからミステリアスな仕掛けがあるのかと予想させながら、祭りで偶然出会ったおばさんが美月本人だったという安易さに言葉を失った。また、孝祐の生き別れた娘もなぜか同時に福井を訪れていて駅やホテルで孝祐と絡むのだが、ふたりの関係にはオチがない。さらに傷心のバイオリン弾きに至っては何のために登場したのか不明。もっとストーリーを練り上げてほしかった。
オススメ度 ★★