こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

高地戦

otello2012-10-31

高地戦

監督 チャン・フン
出演 シン・ハギュン/コ・ス/イ・ジェフン/リュ・スンス/コ・チャンソク/イ・デヴィッド/チョ・ジヌン/チョン・インギ/パク・ヨンソ/リュ・スンリョン/キム・オクビン
ナンバー 266
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

死ぬのは怖くない、だが、もうこれ以上仲間が命を落とすのを見たくない。そんな思いが兵士たちの脳裏によぎる。しかも銃口を向けあっているのは同じ民族で、酒や食料を通したささやかな交流すら生まれている。映画は、朝鮮戦争末期、何度も奪還と撤収を繰り返す高地を舞台に、最前線に配属された兵士たちの心情をリアルに再現していく。そこには、故郷に残した家族や恋人への愛情を切々と綴る感傷や交戦国への憎しみ、軍隊内でのエゴや腐敗などはない。彼らはただただ早く戦争が終わってほしいと願うのみ。まさしく、“戦う相手は敵ではなく戦争”の現実が彼らに襲い掛かかってくるのだ。

韓国軍のカン中尉は、内通者を探すためにエロック高地付近を守るワニ中隊に赴く。その部隊はかっての友人・キム中尉が中心となって共産軍と小競り合いを繰り返していたが、兵士たちはみな心に深い傷を抱えていた。

ワニ中隊の兵士たちは戦闘が日常となり、すでに死と隣り合わせの緊張感はない。無論、戦友の戦死には胸が痛むが、気持ちの切り替えも早い。“浦項で見た地獄”が彼らから感情を奪い、恐怖に対して不感症になってしまっているが、生き残っていることに後ろめたさを覚えているようでもある。一方で秘密倉庫を通じて共産軍と奇妙な友情を芽生えさせる不思議。それは共産軍とて変わらないのだろう、韓国領内にいる親族への手紙を韓国兵に託してくる。つい数年前までひとつだった祖国がふたつに分断されて米中の代理戦争をする不条理が、この物資の交換箱に凝縮されていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

やがて、やっと停戦合意がなされたのに、発効までの12時間に少しでも支配地域を広げろとの上層部のバカげた命令で、最期の、そして最大の激戦が始まる。もはや兵士たちは消耗品に過ぎず、銃弾・砲弾に倒れた敵味方の死体の山の上にさらに死体が折り重なる。スローモーションと情感たっぷりの音楽に彩られた映像は、「おれたちは何のために戦って、何のために犠牲になったのか!」という戦死者の魂の叫びに聞こえた。

オススメ度 ★★★

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