こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

拝啓、愛しています

otello2012-11-03

拝啓、愛しています

監督 チュ・チャンミン
出演 イ・スンジェ/ユン・ソジョン/キム・スミ/ソン・ジェホ/ソン・ジヒョ/オ・ダルス
ナンバー 269
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

残された時間がわずかなのは分かっている、だからこそこのときめきを大切にしたい。ぶっきらぼうで無愛想、口の悪さゆえに友人がいなかった老人は、不器用ながらも心の声に正直になっていく。愛された記憶もなく長らく貧しい暮らしに甘んじていた老女は、彼の思いに応えようと懸命に字を覚える。もはや人生の終盤を迎えた男と女が、互いの過去も現在もすべて知った上で、未来に希望を託そうとしている。映画はそんなふたりが、寂しさを埋めるかのごとく惹かれあっていく姿を追う。もう若いころのように体は動かない、でも誰かの役に立っていると実感する喜びが、枯れた味わいの映像からにじみ出る。

未明の住宅街、バイクで牛乳を配達するマンソクは転倒した老女に手を貸してやる。翌日からマンソクは彼女が古紙回収のリヤカーを引いて現れるのを待つ。ソンと名乗る彼女は、認知症妻の介護と駐車場管理に忙しいグンボンと毎日言葉を交わしている。

グンボンの妻を偶然助けたことから、マンソクはソンという“好きな人”とグンボンという“友だち”を同時に得る。ソンとグンボンは大都会の底辺の住人、一応きちんとした家に住むマンソクは彼ら貧困層の人々とは接触がなかったはず。しかし、利害を超えた人間関係に新鮮な驚きを覚えたのだろう、自己中心的だったマンソクが彼らを慮り、自分もまた気遣われているのに気づき、柔和な男に変わっていく過程がほほえましくもあたたかい。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

やがて、マンソクはソンと付き合い始めるが、その前に妻の墓に牛乳を撒いて許しを乞う。病床で牛乳を飲みたがった妻の願いを叶えてやれなかった自責の念が、マンソクに牛乳配達をさせていたのだ。実は深い思いやりの持ち主、ただ素直に気持ちを表現するのが下手なだけ、ときに子供っぽく怒りすねたりもするマンソクをイ・スンジジェが渋い表情で演じ、大いなる共感を呼ぶ。老いるのも悪くないと思わせる作品だった。

オススメ度 ★★★*

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