こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

美が私たちの決断をいっそう強めたのだろう

otello2012-12-04

美が私たちの決断をいっそう強めたのだろう

監督 フィリップ・グランドリュー
出演 足立正生
ナンバー 251
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

60年代から70年代前半において映像を通じて世の中と闘った男が半生を述懐する。彼の作った映画は常に先鋭的で世間の常識に挑戦し、さらにパレスチナゲリラとして人生の大半を過ごした思想的背景は生半可ではないと容易に想像がつく。カメラはそんな、映画で革命を起こそうとした男の内面に迫ろうとする。しかし、変革の嵐が吹き荒れたのは40年以上も昔の話、かの時代の熱気を語るわけでもなく、テロリストの稀有な体験を再現するわけでもなく、ただただ曖昧な時間だけが流れていく。

かつて実験的ピンク映画で一世を風靡した足立正生は、いまや白髪メガネの温和な老人。公園でブランコに乗る女の子の背中を押してやったりしている。やがて居酒屋に場所を移し、映画と自らの過去、パレスチナでの衝撃的な出来事を思い出す。

観念の世界と感覚の世界の違いについて、延々と足立は話す。よくわからないが、頭の中の思考が観念で、感覚とは精神的肉体的な刺激を伴うものやことを言っているのだろう。ところが、映画は観念のみでは成り立たない、それを他人に感覚として伝えて初めて映画たりうるはずなのに、足立の考え方は一向に的を射ず、もはや失われた理想郷である自分の世界に閉じこもっているようにしか見えなかった。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

足立を尊敬すると言うオッサンが、「68年の革命」を自己陶酔的に熱弁をふるうシーンがあったが、このオッサンは学生時代は革命を口にして反体制を気取り、就職したのちは会社の犬となってバブルを弾けさせ、結局、日本が本格的な不況を迎える前に定年退職した「勝ち逃げ組」の団塊の世代の代表選手のようだった。己の生き方に一本筋を通した足立は、その意味では立派だとは思うが、それが21世紀の観客にどれほど届いたのだろうか。滑舌が悪く、何を言っているのかよく聞き取れないところが多かったのも足立正生という人物の理解を妨げていた。。。

オススメ度 ★★

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