こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

奪命金

otello2012-12-06

奪命金

監督 ジョニー・トー
出演 ラウ・チンワン/リッチー・レン/デニス・ホー/ロー・ホイパン/ソー・ハンシェン/パトリック・クン/テレンス・イン
ナンバー 296
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

過当競争と先の見えない未来、頼りにできるのはカネのみ。地道に働いても金持ちにはなれないのはわかっているから、人々は手持ちの資産を増やすことばかり考えている。ここで描かれているのはカネを巡る非常事態に直面するいくつかの人生、カメラは欲に目がくらんだ男と女の苦悩と葛藤にのぞき見するような視点で密着し、じっくりと観察する。銀行員、チンピラ、刑事の妻、それぞれの事情の中で何とかカネを工面しようともがいている。大それた夢を持っているわけではない、ただささやかな暮らしに少し花を添えたいだけ。容赦なく降りかかるカネの魔力に翻弄される彼らの姿は切なく滑稽だ。

刑事の妻・コニーはマンションの手付金を払うために株を売ろうとする。営業成績の上がらない金融商品販売係のテレサは老婆に危険なファンドを売りつける。裏社会の何でも屋・パウは兄貴分の保釈金集めに奔走する。そんな時、高利貸しのチャンが襲われカネを奪われる。

なけなしの預金をわずかでも有利に運用しようとする老婆に投資信託を売るテレサ。老婆にリスクが理解できないのを承知で何度も説明し納得させ録音までする。一方、現金しか信用しないチャンはテレサの売り込みをきっぱり断り銀行の手数料を批判する。株や債券といった取引は今やパソコン操作でやる時代、札束の重みこそが人間の値打ちと信じるチャンの商売のほうが、客に損させても売買手数料で利益を上げる銀行より、よほどまっとうに見えてくる。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

やがてギリシア債務危機が起こる。チャンが置いていった500万ドルをロッカーに隠すテレサ、強盗現場から残りの500万ドルをまんまと横取りしたパウ、株価暴落で手付金を借りられなくなったコニー。3人の日常は急転し、本人たちはお互い顔も知らず影響を与え合っていると気付かないまま、いつしか運命がひとつに縒り合さっていく。その意表を突く構成と編集の手際の鮮やかさは、映画ならではの驚きと興奮に満ちていた。

オススメ度 ★★★★

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