こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

レ・ミゼラブル

otello2012-12-07

レ・ミゼラブル LES MISERABLES

監督 トム・フーパー
出演 ヒュー・ジャックマン/ラッセル・クロウ/アン・ハサウェイ/アマンダ・セイフライド/エディ・レッドメイン/ヘレナ・ボナム=カーター/サシャ・バロン・コーエン
ナンバー 300
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

怒りと憎しみを糧に苦痛に満ちた重労働に耐えてきた男は己の人生を呪い、神を恨みながら生き続ける。夢破れ不幸のどん底に突き落とされた女は、わずかな希望にすがりつく。社会の最下層で暮らす人々は搾取され貧困にあえぎつつ、それでも“明日”を信じている。そんな登場人物の願いがこもったメロディの数々は、直接心に届くほど優しく美しく切ない。セリフはすべて歌、ダンスは一切なし。映像と楽曲は、苦難、絶望、歓喜、そして愛を高らかに歌い上げ、これほどまでに音楽は感情を揺さぶる力を持つと改めて実感した。

19年の服役の後仮釈放となったジャンは、司教に庇われて真人間になる決意をする。数年後、マドレーヌと名を変え市長兼工場経営者となるが、元工員の娼婦・ファンテーヌから娘のコゼットを託される一方、正体をシャベール警部に疑われ、再び逃亡を余儀なくされる。

ジャンもシャベールも自分の信念を決して曲げようとせず、現実との折り合いをどうつけるか選択を迫られる。別人が逮捕されたと知ったジャンは無実の男の濡れ衣を晴らすすべきか経営者の立場で従業員の生活を守るべきか逡巡し、シャベールは法と正義の執行に一抹の疑問も抱いていなかったのにジャンに命を救われて価値観を根底から否定されてしまう。人が本当になすべきことは何か、彼らの苦悩と葛藤が生きるという人に与えられた崇高な使命を教えてくれる。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

さらに数年後、妙齢の娘に成長したコゼットが革命家のマリウスと恋に落ちるが、ここでジャンが“父”としての健全な嫉妬を見せるあたりがほほえましい。コゼットを育て、愛する者を守りたいといった人間らしい気持ちを取り戻し、マリウスを命がけで助けて未来を託すジャン。19世紀フランスの街並みや衣装などのディテールはあくまでリアル、その中で思いを歌にするどこか非現実的な設定なのに、圧倒的にエモーショナルな波が押し寄せてくる。魂が浄化されるような不思議な体験だった。

オススメ度 ★★★★

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