二郎は鮨の夢を見る JIRO DREAMS OF SUSHI
監督 デヴィッド・ゲルブ
出演 小野二郎/小野禎一/小野隆士/山本益博
ナンバー 305
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています
1人前3万円からのおまかせコースのみなのに、予約は1カ月先までいっぱい。カウンターとテーブルの10人ほどで満席になる小さなすし屋、なぜ客はこの店のすしを欲するのか。カメラはオーナー職人に密着し、ミシュラン3つ星を獲得した秘密を探ろうとする。酢飯に魚介類の切り身をのせるだけの単純な料理なのに、舌の上でとろけてごはんと一体化する中トロをはじめ、あらゆるネタが口に入れた瞬間に幸福感をもたらすすしを握る男とは何者なのか。ただ純粋にすしを愛し、現状に満足せず、より完璧なすしを求め続ける主人公の生き方は哲学者であり求道者のようだ。
高級すし店「すきやばし次郎」店主・小野二郎は87歳になった今も現役、厨房で弟子たちを指導し、築地に仕入れに出かけている。一応長男が後を継いでいるが、二郎は常に品質に目を光らせ、いまだ包丁を置く気ははない。
おまかせコースは20貫を次々に出されるが、客は二郎が握ってトレーの上に置いたらすぐに手を伸ばす。それは、すしは作りたてがいちばんおいしいからにちがいないが、むしろ二郎の握るペースに合わせて口を動かしている。二郎がすべてを仕切るコンサートマスターに喩えられる通り、もはや主役は二郎で、客はカネを払って“食べさせていただいている”にすぎない。六本木にある次男の店の常連客が「お父さんの前では緊張する」と言うそうだが、店主に値踏みされながら食べるのはやはりどこか落ち着かない。それでもわざわざ海外からも客が来るのだから、その魅力は味わった者にしか分からないのだ。
◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆
長男の握るすしもミシュランから評価され、二郎はいつ引退してもおかしくはない。カウンターに立ち続けるのは、すしこそが彼の人生そのものだから。生涯一すし職人を貫く二郎の姿は、“シンプルを極めるとピュアになる”という言葉が最高に似あっていた。
オススメ度 ★★*