ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日 LIFE OF PI
監督 アン・リー
出演 スライ・シャルマ/イルファン・カーン/ジェラール・ドパルデュー
ナンバー 312
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています
運命をもてあそぶかのように荒れ狂った後に、鏡のように静かで滑らかになる。時に恵みをもたらし、イリュージョンのような絶景で不安を癒してくれる。そんな、太平洋の真ん中に取り残された主人公は、希望を失わないために日々すべきことをこなしていく。ところが、彼の唯一のパートナーは獰猛な肉食獣。映画は少年とトラの過酷なサバイバルを通じて、命の意味を問う。トラが襲ってくるかもしれない緊張感が彼を支え、いつしか孤独を紛らわせる旅の仲間に感じられるという奇想天外な物語は、あらゆる常識や予想を覆し、見る者の心をとらえて離さない。
インドからカナダに向かう貨物船が遭難、救命ボートで脱出できたのはインド人少年のパイと動物園で飼育されていたシマウマ、ハイエナ、オランウータン、トラのみ。トラは他の動物を食べつくすとパイを狙い始める。
ボートをトラに占拠されたパイは簡易筏を作って避難、トラを手なづけにかかる。だが所詮は猛獣、パイはなかなかボートの支配権を奪えない。やがて食料が底をつきやせ細っていくトラに採った魚と水を与えるうちに、恐怖は友情となりトラのパイに対する意識も変わっていく。しかし、あくまで動物は動物と距離を置き、その思いがウエットになりすぎないところに好感が持てた。そして時折見せる発光クラゲの大群やクジラのジャンプ、満月と満天の星々といった幻想的な美しさ湛えた圧倒的な映像が自然の神秘を再現し、思わず息をのんだ。
◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆
さらにパイとトラはミーアキャットの不思議な島に漂着、そこでも信じられない光景を目にし、恐ろしい体験する。パイが語った冒険は、全編、寓意と驚異に満ち、キリスト教・ヒンドゥー教・イスラム教の神を奉る彼の世界観が凝縮されている。己の不運に何度も神を罵り、時折遭遇する奇跡にやはり神に感謝し、最後には彼の漂流自体が神の与えた壮大な試練だったと思えるまでに成長していく。振り向かずに消えるトラと見送るパイ、彼らの関係はまさに神と人間を象徴していた。。。
オススメ度 ★★★★