こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ゼロ・ダーク・サーティ

otello2013-01-12

ゼロ・ダーク・サーティ ZERO DARK THIRTY

監督 キャスリン・ビグロー
出演 ジェシカ・チャスティン/ジェイソン・クラーク/ジョエル ・エドガートン
ナンバー 8
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

過酷な拷問と巧みな嘘、捕虜を肉体的精神的に徹底的に追い詰めて自白を迫る。さらに情報の断片をつなぎ合わせ、逆探知、尾行と地味で地道な作業を繰り返す。そこには超人的なスパイも偏執的な悪党も登場しない。敵もみな血の通った人間、何を恐れ何に怒り誰を信じ誰を愛しているかを微細に調べ上げて急所を突いていく。物語は911以降姿を消したビンラディンの足跡を追うCIA分析官の狂信的なまでの信念を描く。「若いが冷血」、そんな評価を下される彼女が独創的なアイデアで潜伏場所にたどり着く過程は息を飲む緊迫感に満ち、細密に再現された隠れ家への突入シーンは生中継を見ているようなリアリティだ。

ビンラディン追跡の切り札として投入されたマヤは、捕虜に対する尋問だけでなく心理的な揺さぶりで証言を得ていくが、なかなか核心には触れられず、一方でテロは相次いで起きている。やがて同僚の爆殺を機に更なる復讐の炎を燃やしていく。

現場で体を張る工作員や特殊部隊とは違いマヤのエネルギーは膨大な情報の分析に費やされ、非人間的な捕虜の扱いと官僚的なやり取りを丁寧に浚っていく前半は映画的アクションには乏しい。だが、テロ組織連絡係の携帯電話を突き止め、SUVの行き先を探り、要塞と見まがう防御堅牢な建物を衛星から監視してビンラディンの所在を確信していく後半は一気にスリルも盛り上がる。他の高官がビンラディンの潜んでいる確率は60%程度と逃げ道を作っているのに、マヤはひとり100%と断言。“ビンラディンを絶対に殺す”、その圧倒的な自信に、死をも厭わぬテロリストを相手にするには自らもまた同等の狂気を持たねばならないと彼女の表情が物語る。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

爆弾テロに遭い、銃撃も受けた。もはやマヤの心は歴戦のつわもの以上の断固たる決意で固まっている。しかしそれは彼女自身がテロリストの同類に堕ちるということ。対テロ戦争に英雄はいない、人殺しのみ。目的を達したマヤの頬を伝う涙が、彼女の後戻りできない人生の哀しみを饒舌に語っていた。

オススメ度 ★★★★

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