こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

草原の椅子

otello2013-01-19

草原の椅子

監督 成島出
出演 佐藤浩市/西村雅彦/吉瀬美智子/小池栄子/AKIRA/黒木華/貞光奏風/中村靖日/若村麻由美
ナンバー 301
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

夢を追いかけるほど若くはないが、後ろ向きになるほど老いてはいない。サラリーマンとしてそれなりに有能で出世してきた主人公が、ふとしたきっかけで幼い男の子を預かる羽目になるが、そこで初めて無償の愛の尊さを学んでいく。守りたいのはその子の未来、映画はそんな50男が、子育てに奮闘しつつも新たな友情や恋に巡り合う姿に焦点をあて、仕事では得られない充足感を得ていく過程を描く。社会人になってしまうと、男は腹を割って語り合う友人が少なくなるが、臆面もなく本音をさらけ出せる中年男たちの素直さがうらやましい。

営業マンの遠間はカメラ店社長の富樫を助けたときに“親友になってくれ”と頼まれ親しく付き合いだす。ある日、娘の知人の子・4歳の圭輔の面倒を自宅で見るようになるが、圭輔は母親から虐待を受け心身ともに発育が遅れていた。

遠間は突然訪れた急激な変化に拒否反応を示すが、別れた妻や同居の一人娘ときちんと話すチャンスができた上、過ちを繰り返してきた己の過去を顧みる機会になったりもする。さらに偶然見つけた陶芸品店の女将・貴志子とも魅かれあうものを感じていく。カッコつけているわけでもなく、経済力をひけらかすわけでもない、大人になればどこか孤独や不安を抱えているもの、それらの感情を分かち合える関係こそが豊かな人生に直結しているとこの作品は教えてくれる。彼らの対極にある非常識なバカ母が奇妙なリアリティを出し、物語に絶妙のアクセントをつけていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

少しずつ心を開き始めた圭輔を、遠間は中央アジアのオアシス都市に連れ出す。富樫と貴志子も同行し、4人は背後に峻嶮な峰が連なる砂漠に降り立つ。その壮大なスケールの風景は人間の営みがいかに小さいものかを知らしめ、人は生きているのではなく生かされているのだという命への感謝に彼らを導いていく。未来を信じられるかと問う遠間に、信じるしかないと答える富樫。自分たちの手で築ける未来は少なくても、自らの願いを圭輔に託すことはできる。そしてその思いはきっと希望につながっていくのだ。。。

オススメ度 ★★★

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