こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

よりよき人生

otello2013-01-24

よりよき人生 Une vie meilleure

監督 セドリック・カーン
出演 ギョーム・カネ/レイラ・ベクティ/スリマン・ケタビ/ブリジット・シィ
ナンバー 17
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

見送りに来ただけの女をデートに誘う。通りでいきなりキスをする。有望な不動産を即断即決で買い取る。思い立ったら実行、男は夢に向かって走り始める。しかし現実はそれほど甘くない。短慮と無計画でたちまち資金繰りに行き詰まり、借金で首が回らなくなっていく。映画は、傷の浅いうちに撤退しろというアドバイスに耳を貸さず悪あがきを続ける主人公の無様な姿を描く。ホームレスになる寸前でかろうじて踏みとどまっているが、小銭にすら苦労する深刻な貧しさがリアルだ。だが、カネが底を尽き、困窮が深まるにつれ、シングルマザーが残していった少年との絆が深まっていく。その過程は1人で苦闘するより守るべき者がある方が人は強くなれると教えてくれる。

コックのヤンは面接の帰りにナディアに声をかけ、彼女と付き合いだす。ナディアの息子・スリマンもヤンに懐き、3人はピクニックに出かける。ヤンはそこで廃屋を見つけレストラン経営を思いつくが、頭金を工面できず高利貸しに頼ってしまう。

利息ばかりが膨らむうえ営業許可も下りない、典型的な負のスパイラル。あてにしていた収入は途絶え、ナディアとの仲にも亀裂が生じる。そして彼女は給料の良いカナダに出稼ぎに行くと言いだし、スリマンをヤンに預けたまま消息を絶ってしまう。ところがヤンはスリマンを見捨てるどころかむしろわが子のように扱う。万引きを戒めるシーンでは怒りの中にも愛情がこめられ、人がしてはいけないことをきちんと教育していくあたり、カネはなくても誇りは捨てないヤンの生き方がしのばれる。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

やがて、どうしようもないところまで追い詰められたヤンはレストランを二束三文で売り、夢を捨てざるを得なくなる。代わりに手に入れたスリマンという息子。私生児だったヤンもまた父親がどんなものか知らない。だからこそ自分がスリマンの父親になろうと懸命に努力する。夢も故郷も失ったが、何物にも代えがたい家族を手に入れた。やるせない物語が一転して希望に変わっていく、鮮やかな転調に心洗われた。

オススメ度 ★★★

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